書庫

□水玉ピンク
9ページ/14ページ

「深華、今日すき焼きするんだけど、食べてくか?」

「え?
でも…迷惑じゃないの?」

「すき焼きは人が多い方がうまいし、なにより寧音がすごくお前に懐いてるしな」

「じゃあ、お言葉に甘えて、食べて帰る」

「よし!じゃあ、作るぞ。
野菜切るの手伝え」

「え?寧音ちゃんは?」

「テレビ見せとくから大丈夫」

晶はテレビをつけると、台所へ入ってすき焼きを作り始めた。
深華も晶の横に立つ。

「なにすればいいの?」

「そこの野菜を適当に切ってざるに入れて」

適当にと言われても、深華はあまり料理をしたことがなくて、適当がどんなかわからなかった。
とりあえず、手を洗って白菜をまな板にのせると、包丁で半分に切った。

それをもう半分にし、もう一回半分にする。
おぼつかない手つきで、不揃いな大きさに切ってざるに入れた。

「…おい。
それは、いくらなんでも大きすぎだろ」

それを見て、晶が吹き出して言った。

「…ごめん」

「…お前、もしかしてすき焼き作ったことないの?」

「う…。
すき焼きっていうより、料理はほとんどやったことない」

深華が小さな声で白状する。

「ならそう言えよ。
教えてやるから」

晶はそう言って深華に切り方を教えてくれた。
慣れない包丁にかなり時間をかけて、なんとか白菜を切り終わった。

「よし。
後はおれがやるから、お前は皿とか出して並べといてくれよ」

「うん」

落ち込む深華の頭に手を載せて晶が言った。

「俺の女なら、料理は作れるようになれよ。
とりあえず、明日から昼は弁当な」

「え…?毎日?」

「料理は、数こなせばそのうちうまくなるから」

「う…わかった」

深華は朝に弱い。
でも、自分の駄目なところを見ても呆れないでくれる晶に、頑張って料理を練習してみようと決めた。

晶の作ったすき焼きはとてもおいしかった。

なんでも器用にこなす完璧人間だと思ってたけど、晶は実は苦労人だった。

中学のときに晶の両親が離婚してから、食事は晶が作っていたのでかなり上達したらしい。

さらに、寧音を風呂に入れたり、寝かせつけたりもしているらしい。

すごく意外だ……。

深華の家も両親が離婚していて母親と二人だが、深華の母親は働きながらも夕飯も昼の弁当も作ってくれていた。

深華は初めて、母親に甘えてばかりな自分を自覚した。

『私も、もう少し頑張らなくちゃ!』

こどもの世話をしたり料理が上手だったり、今まで知らなかった晶の私生活を知って、深華はますます晶に惹かれていった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ