書庫

□お菓子な訪問者〜はじまりの夜〜
6ページ/8ページ

12年前のゆうりと出逢ったあの日、誰かに強く呼ばれている気がして、俺はあの公園に行ったんだ。
公園に行くと、小さな女の子が一人で寂しそうにブランコにのっていた。

人間ではない。
自分と同じ様な気配を女の子から感じ、興味がわいた俺は、ちょっとだけ一緒に遊んでやった。

無邪気でかわいいゆうりを、俺はすぐに好きになった。
だけど一週間後、ゆうりは突然いなくなってしまった。

あの石がゆうりを守ってくれていると信じて、俺はあちこちゆうりを探した。
だけど、優里はなかなかみつからなかった。

ヨーロッパ中を探しても俺はゆうりを見つけることができなかった。

そうして、12年の月日が流れた。

俺は偶然、ゆうりが今、日本にいることを知る。
俺がそれを知ったのは、年に1度のパーティーに出席した時のこと。

このパーティーには、悪魔や魔族や妖精など様々な種族の者たちが集まってくる。

彼らは酒を飲んだり話をしたりゲームをしたり踊ったり…一晩中楽しく賑やかにすごす。
みな、それぞれ好きなことをして楽しんでいるだけで、お互いを傷つけあうこともない。
だけど、人間から見たら、みんな恐ろしいモンスターに違いない。


俺はまだ130年しか生きてないから、彼らの中ではかなりお子様だ。
人間にしたらまだ11才だからな。


俺は元々一人が好きだから、同じくらいの奴らとしゃべることもせずに、一人ぼーっと椅子に座ってジュースを飲んでいた。

そして、まわりの声を聞くとはなしに聞いていると、たまたま近くにいた魔法使いの男が、自分にはもうすぐ20才になる娘がいる…と狼女に話しているのが耳に入ってきた。
娘の名前は優里。
日本で一人暮らしをしてるらしい。

薄茶の髪がふわふわとして綺麗で、笑顔がとてもかわいいのだと、男は娘を思い出しているのか、でれっとした顔で話している。

俺はそれを聞いた瞬間、その子が『ゆうり』だとピンときた。
その後はずっと、俺は男の話を真剣にきいていた。
男は、娘に彼女の本当の正体を秘密にしていることを悩んでいた。
人間の世界で生きてきて、自分だけ他の子たちと違うと知れば、娘が傷つくかもしれないと思い、いつかは言わなければと思いながらもなかなか言いだせなかったらしい。

魔法使いは20才まではほとんど魔力も使えず、人間とほとんどかわらない。
だから、今までは正体を秘密にしてても大丈夫だったんだろう。

でも、20才を過ぎると成長が極端に遅くなって、ゆっくりと年をとるようになる。
同時に、今までほとんどなりを潜めていた魔法の力が解放されて一人前に使えるようになるから、そろそろ本当の正体を教えてやらないといけない…と男は言った。

そういう男も、まだ20才くらいにしか見えなかった。


優里。
きみは魔女だったんだね。
きみに初めて公園で呼ばれた時、人間じゃないのはすぐにわかったけど。
俺はきみが何者でもよかったんだ。
俺のことを誉め、大好きと可愛らしく笑った女の子。

ちょっと年が離れているとか、そんなことは気にしない。
俺たちモンスターにはたいした問題じゃないんだ。

それよりも、君がくれた温かなおひさまのような笑顔。
初めて自分に向けられる温かな感情とあの偽りのない天使のような笑顔に、俺は恋をした。

もうきみは18才なのか。
悪魔の俺は、あの時からまだ1才しか成長していないのに…。
あの時はきみにお兄ちゃんと呼ばれてたけど、今は反対だな。

きみは覚えているだろうか。
12年前のことを。
悪魔の俺としてしまったあの約束を。

覚えてなくても、必ず守ってもらうけどね。
今度は必ず見つけだして逃がさないよ。
優里…
俺の花嫁…。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ