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□かわいい彼
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「先輩先輩先ぱ〜いっ!」
またきた…。
下校途中、後ろから誰かに声をかけられて、その聞き覚えのある声に、私はうんざりしながら振り返った。
「………なに?」
「今帰りですか?俺も一緒にいいですか?」
「………やだ」
「え〜!先輩、いつもながらつれないです……。俺のことそんなに嫌いですか?」
悲しそうな顔をされてちょっと言葉につまる。
別に嫌いな訳ではない。
だけど、私には毎日毎日馴れ馴れしく話しかけてくるこいつを敬遠する理由がある。
「俺が先輩のこと好きなの迷惑ですか?」
また始まった…。
彼は一年生の美坂広司(みさかこうじ)。
入学してすぐ私に一目惚れしたと言って告白してきて、以来、毎日放課後になると、こうして愛を囁きにやってくる。
どうせ、私の見た目のイメージから好きとかいってるんでしょ?
あいにく、私の外見と中身は全っ然違うんだからね。
私は自分が人からどう見られてるかをそれなりにわかっているつもりだ。
友達曰わく、外見だけなら「きれいでいろんなことを教えてくれそうなお姉さん」なんだそうだ。
実際は全然違うのに…。
だから、そういうのを期待してるのなら、どうぞよそに行ってほしい。
「別に君が嫌いなんじゃないけど、年下とはつきあわないことにしてるの」
「なんでですか?なんで年下じゃだめなんですか?」
「ガキだから」
さらりと言った。
「ガキ………」
これには彼もちょっとへこんでるようだ。
呆然と反芻している。
そう。私はもう年下とつきあうのは嫌なの…。
それに、こうやって軽いノリで好きですとか言ってくる奴はもっと嫌…。
「確かにガキかもしれないですけど…でも、年下もけっこういいもんですよ」
「…どこが?」
「え?えぇっと………若さと体力があります」
「………は?なにそれ?」
「おれ体力と持久力には自信あるんですよ」
「なっ………!?何言って……!」
「?俺なにか変なこといいました?あっ!……先輩、もしかして、変な想像してませんか?」
「だ、だって…」
「体力と持久力って、普通にマラソンとか長距離も得意って、それだけですよ?」
「あ…………………」
自分の恥ずかしい勘違いに頬が熱くなる。
「先輩って、面白いですね」
美坂くんはクスクス笑った。
「じゃあ、先輩の好みのタイプってどういうのなんですか?」
えっ?
どういうって……かわいくてかっこいい人……?
いや、それだとだめだ。
えっと、えっと………
「…………大人な人」
私は思いっきり彼と正反対のタイプを口にした。
「大人って…どういうのが大人なんですか?」
「優しくて包容力があってもの静かで、それから…私が困るような質問をしてこない人、かな」
「………………………」
あ、ちょっと言い過ぎたかな?
彼が黙って俯く。
「…そうですか。わかりました。じゃあ、今日はこの辺で失礼します。さようなら」
低い声でそういうと、彼は一礼して駅の改札へ入っていった。
もしかして、傷つけちゃったかな…?
「でも、しかたないでしょ。私はもう年下とはつきあわないって決めたんだもん」
一人になってぽつりと呟く。