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□サンタさんの恋人[番外編]〜カイのひとりごと〜
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今日はクリスマス。
俺のところにも、サンタクロースがやってきた。

天然でとろい上に超がつくほどの鈍感で、いつも俺を振り回してくれる俺だけのサンタクロースは、今俺の腕の中ですこやかな寝息をたてている。



ほんの数時間前、俺のことをどう思ってるのかわからないといったくせに、ついさっき、いきなり好きという言葉をもらった。
いつのまに心境の変化があったんだ?
単に情に流されてるだけじゃないだろうな?
それが、かなり心配だ…。

こいつは俺のことをずっと怖がってたみたいだし、まさか好きな気持ちに気づかなかったなんてそんなマヌケな話は……
いや、相手はスーだからな……。
絶対ないとはいいきれない。
とりあえず、起きたら聞き出すか。



初めてで二回戦はきつかったのか。
それとも初仕事で疲れたのか、イった瞬間に、スーは気絶するように眠りに落ちた。


俺はあどけないスーの寝顔を見つめながら、初めてスーを見た日に思いを馳せる。


実は、俺はここに来る前からスーのことを知っていた。
こいつは知らないが、俺とスーは同じ学校に通っていた。

スーは当時からかなりどんくさくて、なのに、やる気だけは人一倍あるらしくて、率先して何でも引き受けては、失敗ばかりやらかす生徒として学年でそこそこ知られていた。
初めて見かけたこいつは、友達に頼まれたんだろうたくさんのジュースを、食堂の自販機で買っていた。
両手に抱えたうちの一本がころがり、落ちたのをとろうとしてまたもう一本、さらにもう一本…と、抱えていたジュースがゴロゴロ転がっていき、スーはわたわた慌てていた。

最初は呆れながら見ていた俺だが、必死にジュースを集めるしぐさは、まるでどんぐりを拾うリスのようで。
その小動物みたいなかわいさに目を奪われ、しばらくじっとその様子をみていた。

チビな体に大きな目、そしてリスのようなしぐさは俺のストライクゾーンど真ん中にみごとに命中した。

その時の俺は目の前の愛らしい生き物を見つめることに夢中で、手伝うなどということが全く思い浮かばなかった。

あとになって、あの時手伝っていれば声をかけることができたのにと気づいてかなりがっかりしたが。


それからも、時々スーの姿を見かけたが、話したこともないのにいきなり声をかけるのもはばかられ、俺は離れた場所からスーを見ていることしかできなかった。

そして、やがて俺たちは卒業した。
在学中に全ての陸上試験で一位をとった俺は、余裕で卒業して特Aというトナカイで最高の称号をもらった。
スーも卒業と同時になんとか最終試験に合格し、正式にサンタクロースになった。


これは最重要機密だが、特Aのトナカイにはパートナーのサンタクロースを指名できるという特権があって、俺は迷わずスーをパートナーに指名した。
そして、めでたく近くでスーを見つめる権利を得たわけだ。

一緒に暮らし初めてからは、毎日スーの可愛さに癒されながら、なかなかに幸せな日々を送ってきた。
スーの想像通りの素直さと、思ったより頑固でがんばり屋なところに、俺はますます惹かれていった。


このことは、スーにはもちろん全部秘密だ。
でもいつか、こっそり教えてやろう。
こいつがどんな顔をするのか楽しみだ。
またわたわたと慌てて、あの凶悪なかわいさを見せてくれるんだろうか…。



とりあえず、起きたらまず、こいつの本心を訊かなくては。

早く起きろよ…。

俺は、愛しいサンタクロースの唇に何度もキスをして、その大きな瞳が開くのを今か今かと待った。

スーのまつげが微かに震え、俺を映して見開かれた瞳がすぐに柔らかく弧を描く。

ちょっと恥ずかしそうに「おはよ」と微笑むこいつは、確かに俺にも幸せを運んでくれるサンタクロースに違いない。




END
 

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