書庫
□先生のとなり〜私の特等席〜
2ページ/27ページ
教壇に上がり、静まり返った教室を見渡してから、簡単な自己紹介をする。
「このクラスの担任の三浦良紀だ。教科は音楽。一年間よろしく。…なにか質問はあるか?」
「は〜い!先生っていくつですか?」
真ん中辺りに座っている女子が手を挙げた。
「22だ」
それに答えると、また別の女子から手が挙がる。
「はーい!恋人はいるんですか?」
「まあな」
「え〜?残念」
教室中がざわざわし始める。
俺はそこそこモテる方なので、高校の頃から今まで彼女がとぎれたことはない。
でもくるもの拒まず去るもの追わずな性格なので、付き合うのも別れるのも相手からで、長続きはしない。
今の彼女とも付き合って半年くらいになるが、忙しくて最近はあまり会ってない。
教室中から「がっかり〜」だのなんだのと主に女子からの声が聞こえてくる。
ったく……マセガキどもが…。
たとえ彼女がいなくたって、15才の女子高生なんて相手にするか。
「ほら、静かにしろ。じゃあ一人ずつ自己紹介してもらう。荒井、お前から。名前と出身中学と…あとは適当にな」
「はい。」
出席番号順に次々と生徒が自己紹介をしていく。
「あの……柳瀬麻衣です。出身中学は……」
「は〜い!声が小さくて聞こえませ〜ん(笑)」
大人しそうな女子の番になって、一人の男子生徒が野次を飛ばした。
やれやれ。お調子者はどこにでもいるもんだな…。
そう思いながら、真っ赤になって下を向いている柳瀬に声をかけようとした。
その時、
「うるさい!ちゃんと聞こえるでしょ。ちょっと黙ってなさいよ。麻衣ちゃん、頑張って」
……へえ。なかなか威勢のいいのがいるな。
柳瀬の後ろの席の女子が、大人しそうな彼女を庇って野次を飛ばした男子生徒を睨んだ。
柳瀬はその声に励まされてなんとか自己紹介を終え、ほっとした様子で席に座った。
交代で、その女子が立ち上がる。
「山下茜です。出身中学は箱中です。…趣味はカラオケ。よろしくお願いします」
山下茜か。ふーん。
ちょっと緊張しながらも彼女は元気良く自己紹介をした。
見た目はどこにでもいるごく普通の女子高生だ。
ぎりぎり肩に届くぐらいのサラサラの髪。色はちょっと茶色いが、おそらく地毛だろう。
性格はちょっときつめ…だろうか、でも友達思いなのが、今の一件から見て取れた。
次の生徒が自己紹介を始めていたが、俺はしばらく山下茜をじっと観察していた。
全員の自己紹介が終わると、次はクラス委員決めだ。
新任そうそう担任を任されるなんて、面倒なことこの上ないな。
内心そんなことを考えながら、表情には出さないように気をつける。
「誰か、クラス委員に立候補するやつはいないか?」
教室中がシーンと静まり返る。
まあ………いるわけないよな。
クラス委員なんて面倒な雑用、俺だってごめんだしな。
誰も立候補者がいないので、仕方なく指名することにした。
ぐるりと教室を見渡す。
「そうだな……………じゃあ、山下茜。お前やってくれるか?」
「えっ?私ですか……?」
山下茜は驚いた顔で自分を指差している。
「ああ。だめか?」
「いいえ…わかりました」
少し間があき、彼女は了承した。
「おう、助かる。じゃあ、クラス委員は山下に頼むから。よろしくな」
軽く笑いかけたのに、何故か彼女は俯いて、俺の笑顔は無視された形になった。
なんだこいつ……せっかく人が笑いかけてるのに。
なんかムカつく…。
俺は内心で少し苛立ちを感じながら、高校生活の手引きやたくさんあるプリント類を全員に配った。