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□先生のとなり〜私の特等席〜
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生徒の自己紹介が始まった。
これから一年間一緒のクラスメイト。
私は淡々とした紹介が、耳から抜けないように集中していた。
一言二言の自己紹介はあっという間に終盤まで順番がまわり麻衣ちゃんの番に。

「あの……柳瀬麻衣です。……」

見たまんまの大人しさと可愛さを持つ麻衣ちゃんに、一人の男子が声が小さいとからかった。
ただでさえ緊張する自己紹介でその上入学初日だというのに何てこと言うんだこいつ!
そう思った瞬間、私はうるさいと口に出してしまった。
ぱちくりと驚いたように見開いたその男子は、私の言葉に口を閉じた。

何を言おうか考えていたのにすっかり忘れてしまったじゃない…

麻衣ちゃんが座るのを確認して立ち上がり、とりあえず名前と出身校を言い、適当に趣味を付け加えるとお辞儀して座った。
ものの10秒ほどのことでも緊張してしまう。

ふぅと肩の力が抜けた。
ふと前を見ると、さっき麻衣ちゃんをからかった奴が後ろを向いていた。

こっち見てる…?
つんつんとしていて短髪黒髪の男子
もう既に名前は覚えてない
少し首を傾げると見られていることに気付いたのか、ふんっとするように前に向き直った。

さっきの言いすぎたかな?…いやいやそんなはずはない。
そもそもあいつの席は横の列の一番前。
つまり麻衣ちゃんとはそんなに離れていない。
声が聞こえないわけがない。
私はそれ以上考えないことにした。

「…じゃあ山下茜。お前やってくれるか?」

頭の中の考察が終わった途端に自分の名前が呼ばれ、びくりと肩が揺れた。

「えっ?私ですか……?」

名前を確認すると先生は頷き、駄目かと私に尋ねた。

……何の話しだろう?
一人話についていけてないことに慌てる私とは逆に、教室は静かだ。
たまに他のクラスの拍手の音が聞こえる。
どうだ?と問うような先生の顔に私は何がですかとも聞けず、……了承した。

…やばい気がする。
何の指名をされたのだろう。
了承したものの何のことだかわからない。
俯いて肘をつき回想してみる…が先生の声など何も残ってない。

私は仕方なく麻衣ちゃんに聞こうと顔をあげると、麻衣ちゃんはもうこちらを見て、何やらキラキラと目を輝かせていた。

「すごいね、クラス委員なんて!」

私も何か手伝うからねと意気込む麻衣ちゃんの言葉に、私は何がなんだかわからなかった。

「クラス委員って…私が?」

思わずそう呟いた私に麻衣ちゃんは小首を傾げて違うの?と返した。

さっきの指名って…クラス委員だったんだ。
…うー面倒な仕事を任されてしまった。
あーあー…
突っ伏すと思わずため息が出た

「山下。」

また先生の話聞いてなかった…

「はい。」

「配布物が多いんだ。手伝ってくれ。」

…なんだ。
内心ほっとして席を立つ。先生からプリントを受けとった時に、気付いた。
白くて長い綺麗な指…

「山下?」

「あっ、はい」

あまりに綺麗で思わずボーッと見てしまった。
手引きやプリントを配り終えると余った紙を教卓に置き、自分の席に戻る。

「さんきゅ」

先生の横を通ると、その言葉とともに手が頭に落ちてきた。

わわっ…
ぽんぽんって大きな手。
その時初めて先生の顔をちゃんと見た。
紅茶みたいな色した目にすっとした鼻。
顔も体も全体的に細い。

さささっと逃げるように席について一息つくと、先生はかすかに微笑んでいた。
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