書庫

□chocolate time
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「明(あかり)、風邪引いて今日休みなんだって。」

「そうなんだ。大丈夫かなぁ?」

「放課後、お見舞いいく?」


1時間目の休み時間、何をするでもなくぼーっと机に座っていたら、僕、小崎亮平(おざきりょうへい)の耳に、前の席の女子が話す声が聞こえてきた。

斜め前の席の水野明(みずのあかり)は、背中までの長い黒髪が印象的な女子だ。

クラスでもトップクラスの成績で、まじめで、いつもまっすぐ背筋を伸ばして座っている。

僕の席からは、彼女の左耳とほっぺたの輪郭が見えるくらいで、めったに顔を見ることもなかった。

そういえば、一度だけ彼女から話しかけられたことがある。

昼休みに友達と学食に行き、教室に戻ってきた時のこと。

「あの、これ。さっき美術部の先輩がきて…小崎くんにって…」

「ああ、ありがと。」

同じ部の先輩がもってきたプリントを、彼女からうけとった。

かわしたのは、たった一言だけ。


そんなわけで、彼女の欠席も、僕には特に気になる出来事ではなかった。


僕は高校2年生になっても、女子にあまり興味がなかった。
女子としゃべるよりも、趣味の絵を描いたり、友達とゲームをして遊ぶ方が僕には数倍楽しい。

さらに言うと、僕には恋愛経験がほとんどなく、今まで好きな子がいた試しもない。

よくつるんでいる友達からは、心配されたりからかわれたりするが、今のところ僕には、友達に紹介されてまで彼女を作りたいという気はなかった。
きっといつか、自然と女の子を好きになる日がくる。
それまでは、そっとしておいてほしい。
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