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□とある王家の恋物語
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目の前に迫る断崖絶壁
はるか後ろから、だんだん近づいてくる馬のひづめの音
少女はその断崖絶壁から、眼下に広がる海を見下ろして、立ちすくんでいた。
少女の名はエレンシア。
栗色の髪に、碧い大きな瞳、乳白色の肌はまるで透き通るようで、『可憐』という言葉がぴったりのとても美しい姫だった。
「エレンシア様!急がないと、もう追っ手がきます!」
姫の侍女のルカが、そう急かす。
ルカはエレンシアより3つ年上で、
幼い時から姫の遊び相手兼、侍女として、ずっと城で働いてきた。
二人は姉妹のようにいつも一緒だった。
「ルカ……私には、やっぱり無理。
私が敵をひきつけるから、あなただけでも逃げて」
姫がそう言うと、ルカは笑って首を振る。
「いいえ。あなたを置いて私一人逃げるなんて。
私はずっと、最後まで姫様のおそばにいますわ」
「ルカ…ありがとう…」
エレンシアはルカを抱きしめて涙を流した。
ルカもまた、姫の背中を優しく撫でながら泣いた。
しばらくの間そうしていたが、エレンシアはいよいよ覚悟を決めた。
涙を拭いて、彼女は目の前に切り立つ崖を覗きこんだ。
下から吹き上げてくる風に、ウェーブのかかった長い髪がなびく。
生か、死か………
エレンシアは今まさに、その選択を迫られていた。
もう間もなくすれば、追っ手がここまでやってくるだろう。
戦争に負けた国の王族は、捕まればどんな目に合わされるかわからない。
死刑になるのか、捕虜にされるのか…。
捕虜にされ、長く苦しみながら惨めに生き伸びるくらいなら、自らの誇りを守り、ここから飛び降りて死んだほうが…
でも、死ぬのは怖い…
まだ、死にたくなんかない
私は、生きたい……!!
涙が溢れ、視界がにじんだ。