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□とある王家の恋物語
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城が攻め落とされるのがあまりに早かったので、母を探して一緒に逃げることができなかった。
きっとまだ城のどこかにいるはずだ。

お母様、今どうなさっているのかしら……
まさか、敵の手に落ちて………
いいえ、きっと大丈夫。大丈夫よ……


母がどうしているのか、それがとても気がかりだった。
城のどこかにうまく隠れているといいが、もしかしてもう敵に捕まっているかもしれない。
それとも…………

エレンシアの頭に、母が血を流して床に倒れている悲惨な映像が浮かんだ。

いや!!!
お母様………!!!

彼女は首を振って、嫌な想像を払いのけた。

まだ16になったばかりの少女には、今の状況はとても耐えられるものではなかった。

母の行方はわからず、自分もこれからどうなってしまうのか…。

不安と恐怖と心細さとで彼女の心はもう張り裂けそうで、その瞳からは真珠のような涙がポロポロとこぼれ落ちた。



川と海に囲まれたこのザナ王国で、女の足で兵士たちから逃げきることは難しい。
戦うにも、武器も持たない女二人で、何人もの兵士を相手にできるわけがなかった。
そもそも、エレンシアが習った武術といえば護身術程度のもので、長い剣や槍を持った熟練の兵士と戦うなど、土台無理な話だ。

彼女に残された選択肢は2つ。
ここで敵に捕まり、死刑か良くて奴隷にされるか、
潔くここから飛び降りて死ぬか………

彼女は、一度後ろを振り返り、ルカを見た。
ルカは、真剣な表情で主を見つめ、わかっていますと言うように、こくんと頷いた。

馬のひづめの音と男たちの声が、さっきよりも近づいて来ている。

彼女は切り立つ崖の先端に向かって、震える足を一歩踏み出した。

あと4歩も歩けば、その先は………無だ。

目をつぶって、大きく深呼吸をしてから、もう一歩足を踏み出す。


…………っ怖い………!


エレンシアは、その場にへたり込んでしまった。

「エレンシア様!」

ルカが駆け寄ってきて手を貸すが、足が震えて立つことができない。

やっぱり、私には無理…
まだ、死にたくない………!
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