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□お菓子な訪問者〜はじまりの夜〜
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次の日も、夕方子どもたちがみんな帰ってしまって、優里が一人ぼっちで遊んでいると、お兄ちゃんが現れた。

「あ!お兄ちゃ〜ん!」

お兄ちゃんはいつのまにきたのか、すべりだいの上に立っていた。
優里はお兄ちゃんを見つけるとすべりだいまで走っていった。
下から呼ぶと、お兄ちゃんがおいでおいでをしている。

優里は階段を上って、てっぺんにいるお兄ちゃんのそばにいく。

「こんばんは。ゆうり」

「こんばんは。
お兄ちゃん、今日もゆうりとあそんでくれる?」

「うんいいよ。」

「よかった。
…昨日はどうしてかえっちゃったの?」

「…俺、あんまり人と会うのが好きじゃないんだ」

「そうなの?
でも、ゆうりには会ってるよ?」

「ゆうりは特別。
俺の選んだ女の子だからね」

「ふぅん」

「だから、俺と遊んでることはゆうりと俺だけのひみつにしてくれる?」

「うん。
ママにもいっちゃだめなの?」

「うん。誰にもひみつ。いい?」

「うん。わかった」

「いいこだね。」

お兄ちゃんはそう言って優里の頭をなでてくれた。

「そのかわり、いいものあげるよ。
目をつぶって両手を出して」

言われたとおりにぎゅっと目を閉じると、優里の手になにか冷たいものがそっとのせられた。

「もう目をあけていいよ」

優里がそーっと目を開けると、手の上にきれいな乳白色の玉がのっていた。

「きれい!
これなあに?」

「これは月の石だよ。
持っていれば必ずゆうりを守ってくれるから。
ゆうりにあげる」

「すご〜い!
ありがとう」

優里はビー玉よりも少し大きなそれを大事そうに両手に包んで、お兄ちゃんにニコニコと笑いかけた。

「その石を月に向けて、中をのぞいてごらん」

優里がまんまるの石を月にかざしてのぞいてみると、それは、ちょっとの光の加減で青くなったり赤くなったり七色に変化した。

「ぅわ〜!!
すごぉい!きれいだね〜!」

優里は頬を紅潮させて、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。

お兄ちゃんはそんな優里を優しい目で見つめながら微笑んだ。

でも、ここはすべりだいの上、飛び跳ねるとちょっと危ない。

「ほら。危ないよ」

お兄ちゃんは優里をふわっと抱っこした。

「ゆうりはおてんばなんだね。
危なっかしくて心配だな」

優里はお兄ちゃんに怒られてちょっとしゅんとした。

「その石、いつも持ってるんだよ」

「はぁい。
ごめんなさい…お兄ちゃん」

優里が素直に謝ると、お兄ちゃんはクスクス笑いながら、優里のほっぺにキスをした。
優里はお兄ちゃんに抱かれて、首をすくめて恥ずかしそうに笑う。

「ゆうり、ちょっとその石かして」

優里がにぎっていた手をひらくと、いつのまにか手の中の石には細い銀の鎖がついていた。
さっきはついてなかったのに。

優里は首をかしげる。

お兄ちゃんは優里をおろすと、それを優里の首にかけた。

「わぁ〜ネックレス!!」

「はい。
これで落とすこともないね」

「うん♪
ありがとう!お兄ちゃん」

優里は胸のところにさがった石を見つめて目をキラキラ輝かせながら無邪気に笑った。
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