本〜オリジ〜

□あの時言っていれば今も彼女が俺の隣で笑っていたのかと思うのもバカらしいよ
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ある日学校に行くと、彼女がいた。
俺は目を疑った。
何故なら…
彼女は去年のこの日、死んでしまったからだ。






「久し振りだね、頼朝君」
彼女は一年前と変わらぬ笑顔で、俺に話しかけた。
「八重…?」
「そうだよ」
なんともないように喋る彼女の身体を見ると、やはりというか、足が無い。
「ゆ…ユーレイ!?」
「えへへ、天国から来ちゃった」
えへへってお前!!!
「心配だったんだもん、頼朝君のこと」
すっと漂いながら八重は俺に近づき、頬に触れた。
「学校を、まわりたいな」
「は?」
「皆がどうしてるか、知りたい」



「これが頼朝君の今の教室かー!」
ウキウキという文字が背景に見えそうなほど、はしゃぎながら八重は教室に入った。
他の奴等は朝なので今はまだ来ていない。
俺は…朝早く来るのが日課なんだ。
八重が…いたときのことを忘れないように。
あの気持ちを忘れないように。
「っちーっす」
突然ガラリとドアが開く音がした。
「おはよう、頼朝君」
「今日もお前だけか」
「中原さん、おはよう」
「あれ、俺に挨拶無し?」
入ってきたのは男子と女子。
名前は木曾と中原。
高1の時から一緒のクラスメイトだ。
よく四人で昼にはあの屋上にーー
「あー!中原ちゃんと木曾君だー!!」
いつの間にか奥の席に座っていた八重は声を出した。
バッと二人が俺の後ろを見た。
途端に表情が変わる。
「「や…や…八重(ちゃん)ーーーー!?」」
「久し振り」
二人はファイティングポーズで固まった。



「…どーやら、俺らにしか見えてねぇみたいだな」
昼休み、屋上でご飯を食べながら話す。
確かに、同じクラスの奴らには八重は見えてないうようだった。
一年の時同じだと見えるのかと思い、比較的仲のよかった加絵、将、観月の所に行ったが、違うクラスだと何故か見えないようだ。
「でも、皆元気そうで良かった」
「うん、クラス変わったけど、皆元気よ」
「ねぇ、頼朝君。変わった事とか、あった?」
茫然と3人の話を聞いていた俺に八重は話しかけた。
「あー?うーん……観月ん家が、犬を飼って、学校に来たり…」
「うんうん」
「将と加絵が付き合ったり…」
「あー、やっと?煮えきらなかったもんねー」
「こいつらが付き合ったり…」
「うんうん………え?」
八重の視線が木曾と中原にいく。
「うわーおめでとうー!!」
「お、おう」
「キスした?キスした!?」
「ちょっ!八重ちゃんっ!!」
変わらない、この日常。
八重が死ななければ続いていたであろう日常。
「っ、」
「!どうしました?頼朝君」
「…トイレ」
「おー、いっといれー」
「木曾君、寒いーそれ」











俺はその後逃げ出した。
八重が近くにいると、思い出す。
逝って欲しくなかった。
昨日いっしょにいた人が、
ずっと一緒にいた人が、
去っていくのは辛かった。
周りが忘れ、他の友人が悲しみを乗り越えても、俺は、俺だけは、無理だった。

失ってから気付いた。


好きだったんだ、八重が。


あの日俺は、午前中元気が無かった八重がとても心配だった。
五時間目の途中、保健室へ行くと言った彼女の事が更に心配になり、俺は後ろをついていった。
たどり着いた先は、屋上。
名前を呼ぶと彼女は笑い泣きながら、
『さようなら』
それだけ言って、飛び降りた。


キーンコーンカーンコーン。
ふいにチャイムが鳴った。
我に返り、教室へ向かった。


「!おい、頼朝っ」
「あ、木曾」
「どこ行ってたんだよ!」
「え、あ〜……あれ、八重は?」
「っ、なんも言われてねぇの!?八重はーーー」







「八重!!」
「頼朝君」
(ーー八重は、自分が死んだ時刻に天国に帰るんだってよ!!)
そういうのは…早く言え!!
「また、見つかっちゃったな」
困ったように、彼女は笑う。
本当に八重は変わらない。
嬉しい時も悲しい時もいつでも笑う。
「見つかっちゃった、じゃねぇよ!!なんで言わない!?」
「頼朝君には、また、悲しんで欲しくなかったから」
「ふざけんな!!なんだよっ、それ……」
「…私が死んで、毎日頼朝君はここに来て、いつも悲しそうだった。だから、気になったの。頼朝君、皆と上手くいってないんじゃないかって」
柵に腰掛け、彼女が言う。
「でも、安心した。皆と一緒で、楽しそうで」
「…っ楽しいわけあるかっ」

俺は彼女に近づいた。
楽しいわけがない、言えなかったんだ、大事なことを。
言いたくて、言いたくて、ずっと辛かった。
さよならとか、行かないでとかじゃなくて、そんな程度の事じゃ無いことを。

「好きだ」
やっと言えた。
自分の本当の気持ち。
俺は消えそうな彼女の手を取った。
「有り難う」
彼女は笑った。
あの時のように泣き笑いながら。
俺は彼女を引き寄せ、キスをした。
「…もう、行かなきゃ」
「うん」
「…っ」
「八重、じゃぁ、な」
触れてる感覚はもうない。
足元から彼女は消えていく。
「さようなら」
俺は笑顔で彼女に言った。
「!…っ、さようなら…っ頼朝君っ私も…頼朝君の事が好き…!!
だから…私を忘れないで!!!」
俺が最後に見たのは、何時もの彼女の嬉しそうな笑顔だった。

「さようなら…八重」
堪えてた涙が頬を伝った。



…俺は忘れないよ。
俺の、初めての“彼女”のことを。
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