創作短編◆

□両方だと思ってる
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杯羽と藤原は部活帰りにファーストフード店に入った。
時刻は午後七時を過ぎ、店内はふたりと同じくらいの高校生から年配のおじさんやおばさんなど様々な人でごったがえしている。
藤原はカウンターでバイトのお姉さんに注文する前に杯羽に声をかけた。

「はいばぁ、何頼む?」
「玉露茶とカツ丼」
「ねーよ」
「じゃあメロンソーダとマキシバーガー」
「最初からそう言え。…俺もマキシにしようかな」
「パクんじゃねーよ」
「パクってねえよ」

ふたりの会話にくすりと笑ったお姉さんにメロンソーダとマキシバーガーをふたつ、藤原の分のオレンジジュースを頼む。
商品を受け取って、運よく空いているに座った。

「あー疲れたー」
「ほい、乾杯」
「おー、乾杯」

紙コップをぺしん、と合わせて乾杯。
中の氷が音を立てる。
ズゴゴゴと勢いよくメロンソーダを飲み、杯羽はおっさんくさい仕草で息をはいた。

「ぷはー。なあ、今日、先輩たちいつもより厳しくなかった?」
「それは言える」
「だろー。いま以上に筋トレ増やせってなんなの?腹筋割れるどころか折れるっつーの」
「まぁ、今日はOBの人たちが来てて張り切ってたし仕方ないだろ。俺らは困るけど」
「だよなー。あー、しんどい。彼女ほしー」
「脈絡ないな」

イスの上でじたばたする杯羽と、行儀よく座ってバーガーの欠片すら落とさず食べる藤原。
性格も違い、一見してまったく噛み合いそうもない彼らが、お互いに一番仲がいいのも不思議なもので。
彼らの友人たちは一様に首をかしげているのがデフォルトだ。

クラスの話や部活の話、今日起こった面白い話などを(主に杯羽が)だらだらとしゃべり続け、気付けば時計の長針は八の数字を過ぎていた。
藤原がそろそろ帰ろうかと思い始めたとき、

「あ」

杯羽が何かを思いついたような声を出した。

「なあなあ、なんとなく思ったんだけどさ…」

杯羽は鞄から取り出したペンでぐしゃぐしゃと紙ナプキンに「ちょうあい」と書く。

「寵愛?」
「いや、ちょうあい」
「寵愛だろ」
「いや、そうじゃなくて、『ちょうあい』って書いたら『寵愛』になるのか『超、愛』になるのか気になって」
「…アホじゃね?」
「アホじゃねーよ!」

ガシャンとテーブルをたたく杯羽。メロンソーダとオレンジジュースが跳ねる。

「でも杯羽は『寵愛』って書けないだろ」
「おう。もちろん書けない。…じゃなくて。そういう話じゃなくてだな。
例えば『ちょうあいしてる』と書いたら『寵愛してる』になるのか『超、愛してる』になるのか気にならね?」
「ならん」
「なんねーのかよ!」
「馬鹿馬鹿しすぎて考える気にすらならねーよ」
「ひっでーな。俺がこんなに力説してるのに」
「…杯羽の力説って謎だらけだよな」

はい終わり、と藤原は会話を強制終了させてトレイを持って立ち上がった。
はぁ、とため息をついて杯羽もそれに続く。
店の外に出るとぬるい風が吹いていた。てぽてぽと駅に向かって歩き出す。

「藤原はさー。俺のことちょうあいしてるー?」
「してない。寵愛もしてないし、超愛してもいない」
「面白くねーな。まったくもって面白くねーよ。もっとノってくれたっていいじゃんか」
「誰がノってやるか!」

びし、と杯羽の額に人差し指を押しつける。
ぎゃいぎゃい騒ぎながら歩いていると駅に着いた。杯羽がぱたぱたと階段にかけよる。

「んじゃ。俺こっちだから」
「気ぃつけて帰れよ」
「藤原も気をつけろよー」
「おう。じゃな」
「ばいばい」

手をふってお互いに別々の方向へと歩き出す。
振り返ると杯羽は耳にイヤホンを突っ込んで自分の世界に入っていた。
階段を一段一段登っていく。
その姿を見ながら小さく呟く。

「ちょうあい、なぁ…」

藤原はしばらく何かを考えていたが、

「ま、いっか」

杯羽と同じように階段を登り始めた。


end

20100923

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