創作短編◆

□クール男子とあったか女子
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まず状況を整理しよう。

雨が降っています。
傘をさしています。
空き地の前に立っています。
段ボール箱が置いてあります。
その中には子犬が入っています。

「…こんなベタな展開ってあり?」

俺は制服に泥が跳ねないよう注意しながら段ボールを覗き込む。
雨に濡れてふやけた箱の中で小さな一匹がうろうろしていた。
犬の種類には詳しくないけど、たぶんオシャレな感じの品種ではないと思う。
だってどう見ても雑種っぽい毛並みしてるし。外国の犬じゃなさそうだし。かといって柴犬でもなさそうだし。
じーっと子犬を見る。
子犬もじーっと俺を見てくる。

…かわいい。

犬好きでもないけど、不覚にもそう思ってしまった。
こう思ってしまったらもう立ち去ることなんてできなくなってしまった。

「…持って帰るか?」

いやいや、これでもクラスでは「冷静なやつ」で通ってるんだ。こんなところを人に見られてたら恥ずかしさで憤死してしまうかもしれない。
ちっぽけな見栄が頭の中をぐるぐると走り回る。
数秒、葛藤する。

「しゃーねぇな…」

傘をさしながら段ボールを運ぶという奇妙な光景を、通りかかる人が好奇の目で見てきた。









翌日。
子犬は連れずに学校に行く。
家が近いので自転車じゃなくて徒歩通学。だから昨日子犬に会えたわけだが。
靴箱で靴を履き替えて教室に行くと、前の席の加地が音楽を聞きながら暇そうに髪の毛をいじっていた。

「おはよう」

声をかけると加地は耳からイヤホンをはずしてこちらを向き、

「おはよ、高崎。…腕、傷だらけだけど、どうした?」
「犬に噛まれた。……家に迷いこんできたやつ」
「へー、マジで?」

ここで馬鹿正直に犬を拾ったなんて言ったら、キャラに合わないって大笑いされるに決まってる。
加地は俺の腕の傷を見ながら、

「飼ったことないから分かんねーけど、やっぱ犬って噛むもんなんだな。でっかいやつ?」
「いや、小さいの」
「小さいのでこれかよ。嫌われてんじゃね?」
「さあな」

加地の軽口に合わせながら鞄から教科書やノートを取り出していると、級友が加地に声をかけた。

「加地。三井が呼んでる」
「おう。じゃ、行ってくるわ」
「行ってら」

加地がいなくなって暇になった。
友達がいないわけではなく、大半が遅刻ギリギリ組なのでまだ誰も姿を見せない。
どうやって暇を潰そうかと考えていたとき、ひとりの女子が話しかけてきた。

「あの、高崎くん」
「…何?」

……危ない。
もう少しで誰?と言ってしまいそうになった。
見た感じ目立たないタイプなのですぐに名前が出てこない。
疑問は顔に出さないで記憶の引き出しを開け閉めする。
俺より二十センチくらい小さい背。ボブカットの黒髪。どっちかっていうと童顔。左瞼の上にホクロ。

あ、思い出した。

「新島か」
「え?」
「あ、いや、なんでもない」

ハテナマークを飛ばした新島に両手をぶんぶん振って引きつった笑いを浮かべる。

「それで?何?」
「えっと…昨日、高崎くんが子犬を拾ってたの見たんだけど…」
「…………え?」
「わたしもあの道を通るんだけど、高崎くんってそういうことできるタイプなんだってビックリしちゃって…」

目の前の女子は今なんて言った?
見られた?あれを?
…あれを?



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