創作短編◆

□あなたが滲んだ日
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駅のホームで、ぶはあぁ〜っと全然女らしからぬため息をついた。
時計を見て、私が乗る特急が来るにはまだ時間があることを確認する。

今日は地味に疲れる日だった。

自分が注意書きを読んでいなかったくせにぶちギレる客はいるわ、その面倒くさい対応をさせられた上司から八つ当たりを受けるわ、いつも帰るときに乗るはずの電車が目の前で発車するわ、身心ともに疲弊感が積もり積もった。
やけ酒したい。
…まぁ、こんなのいつものことだけど。
もう慣れたけど。


次々と電車が入ってくる。
いつも持ってきている音楽プレーヤーも今日に限って家に忘れてきたので暇で暇で仕方がない。
なんつーか、満身創痍ってこういうことを言うんだろうか。いや、なんか違うか、とどうでもいいことを考える。

他にもぽやぽやといらないことを考えていたら電車が来る警笛が鳴った。
特急電車が滑りこんでくる。
ちょうど帰宅時間ということで、中には大量の会社員たちが詰められていた。
空いた席に座るどころか普通に立っていることすら難しそうだ。
こんなときほど、某猫型未来ロボットがポケットから取り出すドアがほしいと願ってしまう。
しかし現実にはそんなことなどありえないので、私は降りてくる人を律義に待ってから、鉄の箱に乗りこんだ。

「発車します、ご注意ください」

ゴウン、と一度大きく揺れて箱は走り出す。
まー、案の定というか当たり前というか、乗車口付近の大きなスペースで大勢の人にぎゅうっと押し潰されそうになる。
こりゃセクハラなんて言ってられないわ。
重圧に負けそうになりながらも踏ん張る。
次の駅で乗り換える人が多いからそれまでの我慢だと自分に言い聞かせる。

電車に揺られながら今日あったことを思い返してみる。
ドジして、失敗して、八つ当たりされる。いいことなんてそうそうない。

「った…」

あ、やばい。

目の奥にじんわりとした鈍い痛みが走る。それはすぐに全体に広がっていく。
マスカラかアイライナーが染みたみたいだ。
目を擦りたいけど、今よりもっとぐちゃぐちゃになってしまいそうでできない。

それと同時になぜだか知らないけど鼻の奥がつん、とする。


あぁ、
…やだ、

泣きそう。




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