創作短編◆

□Melty Downy
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今日は太陽が眩しい。

わたしは制服のまま病院のドアをくぐる。
「三池」と書かれた病室まで迷うことなく、かつ歩調を緩めることなくただひたすら突き進む。

「ひぃーろぉー」

入り口から名前を呼ぶ。
「はぁい」と声が返ってきた。
病室のベッドの上で、ジャージを着た比呂が丸まってお見舞い品の包みを開いていた。
その姿はさながらどんぐりをかじるリスのようで。

「今日は何をもらったの?」
「たぶん果物とかお菓子とかそーいう系だろ。あー、もっと面白みのあるもんくれよなー」
「はーい、そんなこと言う人からは没収ー」

わたしは手を伸ばして比呂から包みを取り上げた。
そして比呂がいるベッドからは手が届かないサイドボードの上にそれを置く。

「返せよ。伊織のじゃないだろ」
「こんな元気な人にお見舞い品なんて贅沢にもほどがあるってば。あとで看護師さんたちに配ってくる」
「いや、ごめん。俺が悪かった」

比呂はベッドの上で器用にびょんと飛んで正座する。
比呂の嘘はすぐ分かるから、今回は素直に反省しているらしい。そんないじらしい姿を見たら何もできない。

「…ごめんね」

わたしはベッドの縁に座ってごろんと寝転がる。

白いシーツのかかった寝床の上側にはわたし、下側には正座したままの比呂。
わたしは視線を天井に向けて、比呂はこちらに目を向けている。
狭い部屋なので必然的にお互いが見えてしまう。
比呂はゆっくり体勢を崩して覆いかぶさってきた。その目は隠すことのない「男」を含んでいて。

「こら、欲情すんなガキ」
「同い年だろーが」
「わたしのほうが一ヶ月早い」
「変わんねーよ」
「変わるわよ」

ぺしん、と比呂の額を左手で、左頬を右手でたたいた。
ふぎゃっと情けない声が上がる。
「どうだ、この二刀流は」と言うと、ふざけんじゃねーよ、と小さな抵抗が返ってきた。





比呂は入院しているけれど、わたしと同じ学校の生徒だ。
比呂が教室に来なくなってから約一週間が経つ。
わたしはほぼ毎日、病院に足を運んでいる。
そして、こんなわたしと比呂の関係を「デキている」と噂する人もいる。

比呂は変なところで有名だから注目されるのも分かる。
どうして仲がいいの?と聞かれれば「昔から親同士が知り合いだったから」と答えている。
大抵の人はこれで納得してくれるが、その理由を差し引いても比呂とわたしがデキていると疑ってかかる人もいる。



だが、その見解は少し違う。
わたしたちはデキているのではない、デキ上がっているのだ。



わたしと比呂は俗に言う許嫁だ。
だが、小説や漫画でよくある「お金持ち同士の」というわけではない。
親同士が知り合いというのは嘘ではなく、彼らが若い頃にそんな約束をしたのだという。

庶民と庶民の許嫁。
この答えは間違ってはいない。




2010.11.06.
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