111式の恋1◆

□2.追いかける
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朝起きたら目の前に艶めかしい太ももがあった。


…………は?


がばっと起き上がると、カーペットで寝ていた俺の横で下着姿の女性がひとり毛布にくるまってすやすやと眠っていた。
え?これ、誰?
ていうかなんで俺は自分のベッドじゃなくて床で寝てるんだ。
寝ぼけた頭をフル回転させて考える。
記憶は昨日の夜に遡る。

そうだ、いきなり帰ってきた兄貴に部屋から放り出されたんだ。

ぴーん、と頭の上に電球が上がった気分になる。
たが、それでこの状況がどうにかなるわけじゃない。
なんの解決にもなっていないのは明らかだ。

とりあえず、このおねーさんは誰だろう。…まぁ多分、兄貴の彼女なんだろうけど。
ちょっと迷ってから、俺は女性の肩を揺らす。

「あのー…」
「うーん…あ、弟くん…?」
「はい」
「…耕さんは?」

女性が尋ねてきた言葉は俺にとって至極当たり前のセリフだった。
携帯をひっつかんでひとつの番号にかける。
コール音が3回目で途切れ通話状態になった。相手の応答を待たずに話しかける。

「もしもし、兄貴?」
『んー?どうした、紳?』
「今どこにいるんだよ?女の人放置して帰ってんじゃねーよ」
『あー、無理。帰れねーわ』
「は?」
『俺、いま沖縄にいるから。じゃあな』

ブツンと通話が切れる。
ツーツーツーという機械音が耳に残る。

…こりゃダメだな。

急に沈黙した俺に困惑の視線が投げられているのが分かる。
俺はまだ下着姿のままのおねーさんに向かって、

「悪いけど、兄貴は帰ってこないよ。あーいう人だってのは分かってるでしょ」

携帯をちゃらちゃらといじりながら言う。

冷たい対応だと思う。
かと言って、俺には兄貴を連れ戻すことも、兄貴の彼女を慰めることもできない。
兄貴が俺の借りている部屋になぜか当然のように来るのも、来るたびに彼女をとっかえひっかえしているのも俺には関係ないから。
一人暮らしの弟の部屋に女連れ込むってのもどうかと思うけど、兄貴には何言っても意味がない。



何も言わない女性に、タンスから出したTシャツを投げる。

「早く服着てくんないスか?一応俺も男なんで目のやり場に困るんですけど」
「あ、ごめん」

彼女は受け取ったシャツをばさっと広げる。豊かな胸が眩しい。
オトナの体をした女の人がこんな近くにいるなんて友人に話したらフルボッコされそうだが、兄貴のおかげで色々な人の姿を散々見てきたので慣れてしまった。
まぁ見れるものは遠慮なく見るけど。眼福眼福。

そんな女の人の色っぽい容姿を床に座って見ていてふと、

「おねーさん、なんで俺の隣で寝てたの?俺は兄貴にベッド取られたけど、おねーさんは兄貴と一緒に寝てりゃいいのに」

一番の疑問に気付いた。
なんでおねーさんは兄貴と一緒じゃないんだろう。
なんとなく察しはつくけど。

俺が兄貴との電話直後に思った「ダメ」とはそういうことだ。たぶん、彼らはもう修復不可能なことになってしまったんだろう。
今まで色々な人を相手に何度も見てきた光景。
もう気の毒とすら思えない。

俺がそんなことを勝手に憶測している間に、おねーさんは兄貴が占領した俺の寝室から、昨日自分が着ていた服を持ってきた。
そして俺の前にぽすんと座る。

「耕さんと喧嘩しちゃったの」
「でしょーね」
「それで寝床取られた」
「…あんた、もう兄貴に近づかない方がいいよ」

裏返せば「傷つく」ということと同義語。
でも彼女は、


「それは断る。こんくらいで諦めてちゃ何もできないよ。あたしは自分の熱が冷めるまで耕さんを追っかけてやるの」


今までの人とは違った。


「…一途ですね」
「だって相手が耕さんだからね」


おねーさんは恋する乙女の目でニコニコと頷いた。



end

2010.11.27.

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