111式の恋1◆

□67.縋る(すがる)
1ページ/1ページ




講義が終わったあと、久しぶりにサークルの集まりに行った。
こんにちはー、と扉を開けると、

「あけみー!待ってくれー!」
「退きなさい!」
「嫌だー!」
「邪魔なの!」
「邪魔じゃなーい!」
「どこがだ!」

明美先輩と道弘先輩が教室のど真ん中で乱闘していた。

「…あの人ら、何してるんですか?」
「なんか別れる別れないって話らしいよ」

荷物を置きながら近くにいた他の先輩に聞くとそんな返事が返ってきた。
なるほど、いつもの光景か。
小柄な明美先輩に縋りついて離れない長身の道弘先輩。
当たり前だけどカッコ悪いなぁ。

「で?今回は一体何が原因なんです?」
「明美の分として置いといたヒヨコ饅頭を道弘が勝手に食ったらしいよ」
「あぁ、そりゃ怒りますね」
「だろ」

部屋には他にも何人かの人がいたが、ふたりを見ているのは自分と隣にいる先輩だけだ。
恐らくみんなの耳には乱闘がBGMぐらいの意味しか持たないんだろう。

「あけみー!マジごめん!ほんとごめんってばー!」
「うっさい!あたしの饅頭食べた罪は思いんだからね!」
「新しいの買ってくるから!」
「あたしはそんなの求めてないの!あの饅頭だからこそ意味があるの!」
「うわあああぁぁぁ明美がひどいいいぃぃぃ」
「うるさい!縋るな!」

明美先輩の服をびーんと引っ張る道弘先輩。
あーあ、あんな力で引っ張ったら千切れそうで怖いって。

「道弘先輩はあんなんですけど、明美先輩は母性本能が強いから、なんだかんだ言ってほっとけないんでしょうね」
「だろうな」
「どう考えても、道弘先輩の愛>>>明美先輩の愛ですけど」
「間に『越えられない壁』も必要だけどな」

冷静に分析する。

「あけみぃぃぃ」
「…………あぁ、もう!仕方ないわね、今回だけよ」
「ゆ、許してくれるのか?」
「今回だけって言ってるでしょーが!」
「うわああぁぁありがとー!マジ愛してるー!」
「は、恥ずかしいからやめて!」
「やだー!」

許してもらったにも関わらず、道弘先輩は明美先輩に子どもみたいに縋りつく。

「…つまり、あの人らはバカップルなんですよね」
「そうだな」
「いちゃいちゃしやがってー、って思いません?」
「そんなもん思わなくなるくらい慣れたわ」
「そーですか」


安堵の表情を浮かべて抱きつく道弘先輩に、ちょっぴり顔を赤くして引き剥がそうとする明美先輩。

そんな姿を見るのが何度目かなんて、もう誰も数えていない。


愛の縋りつきは日常茶飯事です。


end

2010.11.28.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ