111式の恋1◆

□11.逃げる
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その日、とある1年生は3年生から逃げていた。





「コラアアアァァァ待てえええええぇぇぇぇ!」
「嫌です!」
「止まれええええぇぇぇ!!」
「止まりません!」
「あ、市松先生」
「えっ」
「騙されたな!嘘だよ!」
「この鬼!」
「なんとでも呼べ!」

生活指導担当の教師の名前を出されて一瞬立ち止まった1年生は、またたくまに3年生に捕まった。

場所は1階の正面玄関前。昼休みということで周りには幾人かの生徒がいたが、誰もが巻き込まれないようにこちらを見ない。
薄情なやつらめ!と1年生は泣きたくなる。

4階から逃げっぱなしだったということで、1年生の脚はがくがく言いっぱなしだ。
片や3年生は汗ひとつかかず、すっきりとした顔をしている。
こいつは化け物か、と末恐ろしくなる。

「ふいー…捕獲完了」
「捕獲って言わないでください」
「捕獲は捕獲でしょ」

あっけらかんと言い放つ3年生に1年生はため息をつく。

「だから言ってるじゃないですか、俺は柔道部には入りませんって!」
「そんなこと言わずにさ。主将のわたしが頼んでるんだから、これを期に始めてみない?」
「ぜってー嫌です。何回も言ってるように、授業ぐらいでしかやったことないんで無理です。できません」

1年生は頑なに首を横に振る。

「ていうか、なんで俺ばっか勧誘するんですか。他にもできそうなやつはたくさんいますよ」
「んー…いや、他にも勧誘してるのはしてるんだけど。
なんていうか、1年生くんは強くなりそうな気がするんだよね」
「勘ですか」
「そうだよ」

3年生はにっこり笑って、



「それに、わたしは1年生くんのことが気に入ってるんだ」



その頬が赤いのは気のせいか。
かあっと体温が上がる。

「せ、んぱ…」
「嘘だよ」
「この鬼!」
「なんとでも呼べ」

目を三日月のように細めて、3年生はにこにこしている。

「どお?入る気になった?」
「なりません!」

ぴしゃりと言って背中を向ける。





ダメだ、あの顔は。


今度はさっきとは別の意味で逃げたくなるじゃないか、と1年生は下を向いた。



end

2010.12.25.

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