111式の恋1◆

□101.捨てる
1ページ/1ページ




彼は手元に残っている手紙の山をごみ箱に突っ込んだ。
ばさばさと音を立てて紙の束が深さ30センチの箱の中に吸い込まれていく。

彼はそれを無表情で見つめ、何事もなかったかのように片付けを再開する。
だが、機械的に作業を続ける彼の目は、その動作に反して赤く充血していた。

昨日、一晩中泣き続けた結果だということは、彼自身も分かっている。





机の近くに置いてあった紙袋をがさりとひっくり返すと、カランという軽い音を立てて何かが床に転がり落ちた。
目が悪い彼は、その丸いものがよく分からない。
彼はその物体を拾い上げ、顔の前に持ってきてしばらく見つめた。
そして躊躇なくごみ箱に放り投げる。
再び軽い音が部屋に響いた。

未練のない行動に判断の早さ。
そのふたつが合わさって、部屋はみるみるうちに片付いていく。
だが、決して綺麗になったとはいえなかった。

彼が片付けていたのは部屋のほんの一部分。割合でいえば1割か2割に満たないくらい。





しかし、その部分こそが、いつまでも彼を縛りつけている部分だった。
好きだった彼女の残した欠片。
いや、欠片というには少々格好よすぎるか。
ただたんに、彼女が彼の部屋に置きっぱなしにして取りに来なかったといった方が的確だ。
たった数ヶ月前には考えもしなかった彼の行為により、それらはたちまち意味のないものへと姿を変えていく。
お土産、記念品、お揃い、色違い、あえて明記すればこのような感じか。
そして今は、すべてに「だったもの」という言葉を足せなければいけなくなった。
そんな、思い出。





彼は一息つくために、床に座布団を敷いて座った。
ふぅ、と肩の力を抜き、妙に晴れ晴れとした顔で部屋を見渡す。

広くなったわけではない。
ましてや、綺麗になったわけでもない。
あちこちに散らばるものを掻き集めたため、部屋の中は掃除を始める前よりも散らかっている。
ただ、逆にその部屋が新鮮に見えた。
いつもは整頓された状態を保っていたから。
案外、それがストレスになっていたのかもしれない。
部屋は台風が来た状態。
廊下にはごみ袋たち。

そんな中でも、
彼の目は赤かった。





捨て切れないのは、

彼女が残したものか
彼の記憶か。



end

2010.12.28.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ