111式の恋1◆

□24.出会う
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「磯野ー!ナンパしようぜー!」
「俺はカツオか!」

俺は柿倉の頭をスパーンとはたいた。
っていうか、大声で言うなそんなこと。もっとオブラートに包めバカ!





見た目通りへらへらと笑う柿倉に、いきなり「どこいんのー?あ、まじで?じゃあ駅集合でー」と勝手に待ち合わせを強要されたのは15分前。
律義に行ってみれば開口一番、冒頭のセリフを叫ばれた。
用件を聞かなかったのは自分でもミスったと思うけど。

「あー、んで?なんでナンパなんかすんだよ?」
「ははっ、やだー、磯野くんこわ〜い」
「帰る」
「うおおおお!待て待て待て待て!」
「誰が待つか!!」

駅前でこんなことしてる俺らはハッキリ言ってバカだ。どうしようもないバカふたり。

「いいじゃんよー。俺、この前彼女と別れて寂しいんだよー」
「かと言って俺を巻き込むのは筋が違うだろ」
「じゃあ、磯野が相手してくれる…?」
「黙れ」

すすす、とこちらに寄ってくる柿倉を必死にひっぺがす様子はなんともシュールだったと思う。
こいつは自分の欲求に応えてくれそうなら、男女問わず見境なくこんなことを言ってくるので油断できない。
ネタだというのは本人も言っているし、周りの誰もがそのことを知っているが、時々本気か冗談か分からなくなる。
そんな男、柿倉につかまったら基本的に面倒くさいことに足をつっこむハメになる。

「あーもー、分かったよ。付き合えばいいんだろ」
「お、さすが」
「ただし1時間だけだからな。それ過ぎたら帰る」
「えーっ、なんでだよ。磯野がいたら成功率上がるのに」

ぶーたれる柿倉を再びはたく。

「んで?どんな子がいいの?」
「そだなー。…あの子なんかどお?」

柿倉が指差したのは派手な格好をした、いかにも男に慣れてそうな娘。柿倉が好きそうな感じだ。
俺の好みではなかったが、断る理由もないのでとりあえず声をかけることを了承する。

「ねぇねぇ、おねーさん。今ヒマ?」

いきなり常套句を並べはじめる柿倉に行く手を阻まれて、お姉さんは驚いた顔をする。

「一緒に遊ばない?」
「え、いや、えっと…」

…あれ?意外と慣れてない?
俺は少し拍子抜けした気分で柿倉とお姉さんの会話を眺めていた。
が、なんだか違和感を覚えた。

「あの、ほんとにいいですから。その、迷惑かけちゃうんで」
「……なんかあったんすか?」

今まで黙っていた俺が口を開くとお姉さんはびくりとしてこちらを向いた。
そして少し迷ったあと俯きながら、

「……あの、私いつもはこんな格好しないんです。けど、と、友達に『何人男の人が寄ってくるか試してみなよ』って言われて。
だ、だから、なんていうか…せっかく声をかけていただいたのに騙す形になってしまうのが申し訳なくて…」

つまりお姉さんっていうエサに俺たちは釣られたってわけか。
その友達とやらの思惑どおりなわけだ。
…なんだか釈然としない。

柿倉を見ると、なんとも微妙な顔をしていた。はたしてこいつは今の話を理解できたんだろうか。
まぁ、まさか女の子に声をかけてこんな状況に陥るってことの方がびっくりか。
俺はまだ俯いているお姉さんに向かって、

「んじゃ、行きましょうか」
「はい?」
「このままじゃ悔しくないっすか?」

お姉さんの手を強引に取って言えば、あわあわしながらも僅かに頷いた。

「うし。んじゃ、柿倉。俺行ってくるわ」
「お、おう」
「お前も頑張れよ」
「うるせー」










これってある意味、柿倉から横取りした形になるのかな、とか。

もし、誰かに紹介することになったら、出会いはナンパでいいのかな、とか。



そんなバカなことを考えながら、俺はお姉さんの手をきゅっと握った。



end

2010.12.30.

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