企画◆

□ホームワークホリデイ
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寮の自室をノックされ、軽く開けたら越智と若本が仲良く並んで立っていた。

手にはこの連休で出された宿題の数々。
英語や数学や社会の問題集に混じって、生物の資料集の大きさが際立つ。
何も言わなくても、これでは何が言いたいか分かってしまう。

「「まーえかーわくーん」」
「ハモんな気持ち悪いテメェら帰れ二度と来るんじゃねぇ俺は忙しいんだそれじゃあまた明日バイバイ」

これをできるだけ早く一息で言い切って渾身の力でドアを引く。
が、その僅かな隙間に越智の足がシャッと滑り込み、ドアと壁の間に挟まった。

「痛っ。おい、前川。痛いだろ」
「お前が勝手に挟んできたんだろうが。千切れたくないんなら今すぐその足をどけろ」
「誰がするかよ。前川は客に対してそんな無礼な人間だったんですかー?」
「越智が客ならバズーカ持ったSPだって客だ」
「ふざけんじゃねー。俺はバズーカ以下か」
「水鉄砲以下だ」

俺も笑顔だが越智も笑顔だ。

だが、それはいわば表情筋のトレーニングであって、お互い妥協する気はない。
したら最後、こいつらに負ける。
ギリギリギリと奥歯が爆発するくらい踏ん張る。



傍を通りがかった知り合いが「何してんの?」と聞いてきたのが扉の隙間から見えた。
越智が「宿題」とだけ答えると「前川も観念すりゃいーのに」と言われた。
アホか!誰がするか、誰が!
噛みつくように言うと、そいつは笑いながら立ち去っていった。

このままでは埒が明かないと思ったのか、今まで苦笑いしながら俺と越智の攻防を見ていた若本が口を開く。

「前川は宿題終わってんでしょ」
「まぁな。しかしお前らに見せる気はない」
「ひどいなぁ」
「ひどくねぇ。俺は今日一日を休息日にするって決めたんだ!」

ここんとこ忙しくて久々の休日なのに、こいつらの相手までするなんて有り得ない。
獰猛な目を光らせる俺に、若本はまた苦笑しながら言った。

「分からないところだけ教えてくれればいいから」
「んなこと言って、どーせ俺の答え写すだけだろ、主に越智が!」
「なんで俺だけなんだよ!」
「理由を述べてやろう。その一、若本はお前と違ってこんな強行手段をとらない。その二、分からないところだらけなのは主に越智だけ。その三…」
「あーもう、うるせー!!」

バアアァァンとドアが勢いよく開いた。しまった、油断した。
開けられた勢いで俺は前につんのめった。
俺を受け止めて、ぜぇはぁと息を切らした越智が俺を見る。

「よし、これで片付いたも同然だ!」
「ふざけんなテメエエエェェェ離せええええぇぇぇ!」

この部屋の主は俺のはずなのに、越智にずるずると引きずられてもう一度中に入る羽目になった。

若本が少し申し訳なさそうな顔をしていたけど、「じゃ、よろしく!」と爽やかイケメン顔で言われて、ぶん殴りたくなったのは間違ってることではない。





こうして休日が潰されることは確定した。



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