創作短編◆

□透明な意地
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そして清水は唐突ともいえる勢いで花果の手を握った。
びっくりして清水を見ると、目の前に顔があった。
5センチも離れていない距離で清水を見たのは初めてだった。



あれ?なんか近くない?んん?



ぱちぱちと瞬きをすると、そっと清水の顔が近づいてきた。
吐息がかかる。

え、ちょ、待って?
何?これ何?なんなの?

「し、しみ、」



「数学の宿題、写させてくれ」



「…………は?」

真剣な目で、真剣な口調で、真剣な顔をして、清水は花果の手を握ったまま縦にぶんぶんと振る。

「やばいんだ。明日授業で当たるところなんだけど全然分かんなくて」
「…………で?」
「お前のクラス、俺のところより進度早いだろ?頼む、見せてくれ!」

懇願のセリフに花果はにっこりと笑って清水の頭にチョップを喰らわせた。

「いってー!」

清水は頭を押さえる。

「あんた、私が嫌いだったんじゃないの?」
「そうだよ」
「じゃあなんで私に言うのよ」
「理由は今言ったろ!他のみんながいないうちに頼みたかったんだよ!」
「…そんなことのためにわざわざ人払いしたの?」
「うん」

まだ頭を押さえたままの清水は素直に頷く。
花果は目眩がした。

「……分かった」
「あ、見せてくれんの?やった!微分のとこなんだよなー」

清水は顔を輝かせる。
花果は鞄から取り出したノートを放った。
受け取った清水は嬉々としてページをぺらぺらめくる。

が、

「な、なんでなんにも書いてねーの!?」
「残念でした。その時間、欠席しててノート取ってないよ」
「何それずりー!見せてくれるって言ったじゃん!」
「中を書いてるとは一言も言ってない!」
「屁理屈だろ!」

ノートを持って叫ぶ清水に花果も負けじと応戦する。

「あんたこそ変なことしないでよ!」
「は?してねーし!」
「じゃあ、嫌いなやつにあんなことしないでよ!」
「あんなこと?」

清水が疑問を顔に出す。

絶対に言いたくない。
花果は黙ってノートを引ったくった。
ひそかに脈打つ心臓が痛い。
花果が清水に背を向けてノートを鞄に入れようとしたとき、

「あんなことって、こんなこと?」

背中越しに声が聞こえた。
瞬間、最初の時みたいに後ろから覆い被される。

「しみ…っ」

声を出そうとすれば、はなかちゃーんと息がかかる。
近い。近い。





知っていた。
知ってるはずだった。
こいつは性格が悪い。



なのに、

「何してんの…」
「嫌がらせ?」

そう言う清水の声がさっきよりとげとげしていないのは気のせいか。



性格悪い、と呟けば後ろからお前もな、と返ってきた。
それでこそ清水だと花果はなぜか安堵した。

この姿を見られるのが、そばにいる証だと思ったから。



end

20110210

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