創作短編◆

□透明な意地
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「そういや俺、お前のこと嫌いだったんだ」

清水は後ろから花果に覆いかぶさってそう言った。はなかちゃぁーん、と赤い唇が動く。
そんな清水に背を向けて、花果は不快そうに眉を寄せた。
書類を整頓していた手を止めて振り向く。

「じゃあなんでこんな状況になってんの?」
「嫌がらせ」

にひぃっと口を吊り上げる清水は、嫌そうな顔をした花果の前で満面の笑みを浮かべた。



こいつはとても性格が悪い。

漫画とかラノベとかに出てきそうな腹黒生徒会長的ポジションか、と花果はため息をつきそうになる。
まぁ、現実世界でも清水が生徒会長で花果が副会長なのだけど。
有り得ないくらいとんでもない世界に出てくる、有り得ないくらい性格の悪いキャラクターを、有り得ないくらい具現化したような目の前の人物。
いっそのこと有り得ないだらけの世界で生きていてくれないだろうか。
おかげで「有り得ない」がゲシュタルト崩壊してきた。
責任取ればぁか、と清水を睨む私自身も相当性格が悪いなと花果は思う。

花果にそんなことを思われているなど露知らず、清水はぽりぽりと頭を掻く。

「ね、なんか言ったら?」
「ばぁか」
「ほう。そう来るか」

意外そうに目を丸くする清水をようやく押しのけて、花果は思いっきりその足を踏んでやった。
いてぇ!と悲鳴を上げる清水を一瞥する。
ざまぁみろ、ハゲが。

「今、すげー失礼なこと考えてるだろ」

清水が自分の足を撫でながら花果を睨む。
よく分かったねとキラキラつきの笑顔で頷くと、彼はさっと目を伏せた。
その口から「絶対分かってやってんだろテメェ」と呪詛のように低い声が漏れた。
「何が?」と言ってやれば噛み付くように文句を言われた。
おお、それでこそ清水だわ。



花果は生徒会室の隅にあったパイプ椅子に座って、その文句をひとつたりともこぼすことなく聞く。
筋の通った文句に花果はある意味感嘆する。
よくもここまで人に言葉を吐けるもんだ。
他に人がいなくて良かった。

普段の清水に淡い幻想を抱いている1年生がこの場にいたら失神もんだ。
清水がここまでキャラ崩壊を見せるのはなぜか花果の前だけで、他のメンバーがいると言えない文句をぐちぐちぐちぐちと垂れ流す。
信頼されているのか精神的嫌がらせなのかは不明だ。
でもたぶん、私のことが嫌いって言ってたし9割方後者だろうな、と花果は頬杖をつきながら思う。

はーはーと息を荒くさせて清水が一瞬言葉を切った。
その隙に口を挟む。

「文句はそれで終わり?終わりだったらそこの書類書くの手伝ってね」
「終わりじゃねーよ。そんで、なんで俺がんなもん手伝わなきゃいけねーんだ」
「だって元は会長のハンコがいるやつを私がやってんのよ?おかしいと思わない?」

清水のマネをしてにひっと笑えば、目の前の男はぐっと声を詰まらせた。
言い返せないのは罪悪感が僅かにでも残っているからか。

「……他のみんなは」
「どっかの生徒会長さんが外に追い出しました。私に話があるからって」

ぴしゃりと言えば、再びうっと清水の言葉が詰まる。



というか、清水の言っていた「話」というのが、そもそもなんのことなのか花果には分からない。
わざわざみんなが集まる放課後の時間を使って何を言いたいのだろう。
時計を見れば午後6時を過ぎていた。
1時間以上一緒にいたのか…。花果は人知れず慄いた。

追い出されたみんなには、仕事をしなくてもいいから帰宅せよという許可を出している。
だからもう生徒会室には誰も来ないはずなのだが、心のどこかで誰か来てくれないかなと花果は期待していた。

だって、この生徒会長とずーっと一緒なんて息が詰まって窒息してしまいそうだ。

「とりあえず…なんだっけ?『話』?早く言ってよ。私も帰りたいし」
「分かった」

眉を寄せて清水を睨むと、ぱちりと目が合った。
その意外なほど真剣な目に内心驚く。
どうしたんだこいつ。




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