111式の恋1◆

□21.誓う
1ページ/1ページ




愛を誓うなんて、どれだけ弱っちいことなんだろうって思ってた。
そんな誓約書みたいな感覚が信じられなかった。

今まで相手を信用していなかったってことを、自らから露呈していくようなものじゃないか。
ずっとそう思ってた。
そんな自分がまさか誓う立場に立つだなんて誰が想像しただろう。

私は明日、結婚する。










「幸せにします。誓います」

彼からそういわれたのはいつのことだっただろう。
随分昔の記憶だ。
言われたとき、私はその言葉に凍りついた。
誓うだなんて。
私はそれを、口にしたことがなかったから。

誓うと言えば、大抵の場合相手を信じる。
そう思っている人は少なくないはず。
だけど、それを破れば苦しみが心にはびこる。



言葉を折ると書いて「誓う」と気づいたのはいつだっただろう。

誓われた言葉は折られてばかりで、私には何も残らなかった。
唯一手にしたのは虚無感と崩れた信頼。
そんなものいらないと叫びたいのに、また次の誓いを立てられる。
逆らうことのできない台詞に私は再び飲まれ、破棄される。

そうしてひとりで過ごしてきた。





「あなたもどうせそれを破るんでしょ」

唇を噛みしめて私はそう言った。
ここで、今までの彼たちなら「そんなことしない」と言ってきた。
そんなこと、あったのに。
だから彼らは私の前からいなくなったのに。



でも、この人は違った。

「…園子の言うとおり、僕は誓いを破っちゃうかもしれない」

普通なら破らないと言う場面でこの台詞。
私は面食らって彼を見た。

「僕は破るつもりはないけど、園子から見たら破るってことになるかもしれないし」

少しだけ神妙な顔をして彼は私を見た。

「そのときは怒って」

両手を合わせて彼は頭を下げた。





隣に座る彼は少しだけ眠そうだ。
朝早くから準備に追われてるのだから仕方ないことなんだけど。

「大丈夫?」
「……眠い」

新郎がこんな調子でいいんだろうか。
呆れてため息も出ない。

「あ、園子呆れてるだろ」

彼は子どもみたいに私を見てきた。
眠そうな目で睨まれても全然怖くない。

「はいはい」
「…ひどい」

だから怖くないと言えば、また睨まれた。
そしてぎゅっと頬を押さえられて「呆れないで」とだだをこねられた。





私は笑ってもう一度「はいはい」と言った。

くだらない誓約書はもう要らない。



end

2011.02.11.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ