創作短編◆
□ためらわず、とどまらず
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卒業式が終わってクラス恒例の写真撮影をして卒業アルバムにメッセージを書き合って。
門倉は3階にある図書室の隅の、窓を背にした席でひっそりとアルバムを見ていた。
『カドちんのチア姿がまた見たいよ〜』
『かどくらちゃん、いつもありがとう!』
『卒業しても連絡ちょうだいね』
可愛らしい文字で、可愛らしいマークで、可愛らしい言葉たちか綴られている。
門倉はきついインクの臭いのするメッセージ欄を閉じ、クラス写真のページをめくる。
ひとりひとりの笑顔とともに、全員で撮った集合写真がページの一角を占領している。
アルバムの印刷の関係で夏の終わりに撮られた写真の中で、門倉もピースサインをして写っていた。
指で触るとつるつるしている紙が、窓から入ってくる光を反射している。
門倉はアルバムを閉じて机に突っ伏す。
陽の光が背中に当たってぽかぽかする。心地よい暖かさに、なんだかとろけそうになってくる。
頭の中には高校3年間で会った人たちの顔がフラッシュバックしていく。
クラスで交友しチアリーディング部で団結し受験の前にはたくさんの先生にお世話になった。
それを思い浮かべ、恐らくこれからも連絡を取るであろう一握りの友人たち以外の名前を、ゆっくりと記憶から消していく。
今日を境目にしてすべてが「過去」になる。
冷たいとも薄情とも言える記憶除去は、門倉にとって重要なことではなかった。
連絡しないし会わないし遊ばないし。
どうせこれからいく場所に彼らはいないのだから。
「先輩」
不意に聞き覚えのある声がした。
のろのろと顔を上げると、見たことのある顔の女子生徒が立っていた。
制服のリボンの色は青。門倉のひとつ下の学年だ。
あぁ、この子は誰だっけ。後輩なんだけど、名前は何て言ったかな。
記憶除去を進めていた門倉の頭は、すでに目の前の後輩の名前を遥か遠くに押しやっていた。
「卒業おめでとうございます」
ぺこりと頭を下げられて、門倉は「ありがとう」と礼を言った。
「先輩がいなくなってしまうと寂しいです」
「卒業だかんね」
「進学されるんですか?」
「んー…まぁそんなもん」
微妙な間をあけながら門倉は答える。
掻き上げた髪は背中まで伸びていた。
さらさらと流れるそれを見て、今度バッサリ切ろうと決めた。
「で、どうしたの?」
「えっと、チアの送別会に来られてなかったので様子を見に…」
「あー…なんで忘れてたんだろ」
口ではそう言ったが、門倉は最初から送別会に出るつもりなどなかった。
お涙ちょうだいのお別れパーティーになるのは目に見えている。
それなら一刻も早く家に帰って荷造りの最終チェックをしたかった。
だから後輩に見つかったとき、正直「げっ」となった。
自分は酷く性格の悪い人間だと思うが、今までそれに気づかれたことがないのはある意味褒められることだ、と門倉は明後日の方向を見ながら思う。
しかし荷造りに気乗りしなかったので、今こうやって物思いにふけっているのだが。