111式の恋1◆

□75.妬む
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大学の講義が午前中で終わり、わたしは街中をぶらぶらと歩いていた。
大学の立地が都会寄りなので、自然と遊ぶ場所も活気あるところになる。

平日の昼過ぎだというのに人が多い。
サラリーマンからOLさんから、わたしみたいな大学生や明らかに学校をサボったであろう中高生まで。
彼らには、サボったツケはあとで来るよと教えたくなる。
そんな面倒くさいことしないけどさ。
経験者は語るってもんだよ。





ファッションビルの外壁についているどでかいテレビ画面にバラエティ番組の放送が流れている。

『今日はウワサのケーキ屋さんに突撃取材をしたいと思います!』

美人なリポーターのお姉さんがマイクを顔に近づけて意気込んでいる。
そこからパッと画面が変わって店の映像になった。
どうやら生放送ではなくVTRを放送しているらしい。

「突撃取材」だなんてよく言うよ、と思う。
店にも放送局にも事前に許可を得ているはずなのに何が突撃なんだか。
まぁ、そういうのは視聴者の食い付きがいいからだろうけど。
わたしがそんなことを考えている間に、リポーターは店の前に並ぶ長蛇の列に感嘆の声を上げながら客を取材していく。
小さい女の子を連れたお母さんがカメラに向かってにこやかにしゃべっている。
あぁ、この人たちは確かに突撃だろうな。旨味のあるコメント以外はカットされるだろうけど。

『娘はここのケーキが大好きなんです』
『すごい列ですが、何分くらい並ばれているんですか?』
『そうですね…40分か50分くらいです』
『えぇ〜!そんなに!』

お母さんの返事にリポーターのお姉さんは目を丸くして答える。

わたしはそれを大画面で見ながら、なんていうか、よくやるなぁって思う。
こういうのは買いに行くってこと自体がステータスなんだろうな。
友達の中でも行ってみたという子も少なくないし。
わたしは行かないけどね、並ぶの嫌いだし。

『…ということは、おふたりともケーキがお好きなんですか?』
『はい、そうなんです〜』

リポーターが次のお客さんにマイクを向けた。ふわふわの髪をした可愛らしい女性が答える。
ふたりということは傍に友達か彼氏がいるということか。
そういえばわたしの元カレも甘いものが好きだった。

『何を買うつもりなんですか?』
『私はザッハトルテです』

わたしは庶民らしくチーズケーキ派だ。

『それで、彼はモンブランが好きなんです』

あ、奇遇。元カレもそれ好きだった。

『ね、まーくん』

あ、奇遇。元カレも―――

『…そうっスね』



「―――まさ、し?」



見間違えるはずがない。
四角い輪郭も優しそうな垂れ目も眉の横のほくろも。

『ではここで、お店自慢の一品を紹介していただきましょう!』

画面が切り替わって店内の風景とショーケースに並べられたたくさんのケーキたちが映る。さっきの男女の姿はどこにもない。
違う、わたしはこれが見たいわけじゃない。
わたしが見たいのは―――と思ったところで冷静になった。

別れた元カレのことなんて今さら知ってどうするんだ。
あの可愛い彼女がわたしから横取りしたわけでもないのに。
わたしにもその後の今があるように、彼にも今があるはずだ。



この感情の正体にはとっくの昔に気づいている。友達の中にはこれを全面に押し出す子もいる。
あんまりそういうタイプじゃないと思ってたのに、わたしも少しは気になってしまうらしい。

『このあと、スタジオにこちらのケーキが登場です!』

きらきら光るコーティングの果実を乗せた洋菓子がテレビの中で華々しく登場する。



あのふたりも、このケーキを食べたんだろうか。

でも、なんていうかドロドロとした気持ちは沸いてこない。
純粋に、彼の隣にいたあの子が羨ましいなっていうくらい。

ちょっと嫉妬しちゃうけどね。



end

2011.03.31.

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