企画◆

□白雨
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広いリビングに男女が二人。

一般的な家具が均等な密度で置かれてあるのに、妙にがらんとした印象を受けるのは、家具の色が白で統一されているからか。
白いソファに座った少女が対面に座って白いコップを持った少年に問いかける。

「ねぇ、六太」
「何、水名子」
「雨降ってるね」
「雨降ってるな」

窓の外に目をやれば、しとしと小さな雨粒が空から落ちていた。

ふたりの間にあるテーブルの上には「ろくたとみなこへ」と書かれた小さな紙が置かれている。
細くて丸っこい字は彼らの母親からのもので、内容はだらだらとしていて要領を得ない。
20行以上連なった不安定な文字を要約すれば、「仕事が入ったのであなたたちの誕生日を一緒に祝うことはできません」となる。

彼女が六太と水名子の生まれた日を祝わないのはいつものことだ。
去年も一昨年もその前の年も更にその前の年も、ふたりはふたりだけで過ごしてきた。
14年前の同じ日に生まれた彼らと母親が同じ食卓についたのは一体どれくらい前になるだろう。

父親は現在アフリカ大陸のどこかにいるらしい。何かの商談やら発展途上国の開発やらで居場所はよく分からない。



「陰鬱だねぇ」
「陰鬱だなぁ」
「楽しくないねぇ」
「楽しくないなぁ」

それぞれの言葉を繰り返すように、水名子と六太は窓の外を見て呟く。

さあさあと降り続ける雨は、まるで子守唄を歌っているかのようにふたりの眠気を誘う。
単調な音に反抗するように、水名子は重たい瞼をむりやり開ける。
六太を見れば、ソファに座っていた彼は白のクッションを枕にして体を横にしていた。
目を閉じると今の歳よりも幼くなる顔は水名子と瓜二つだ。

静かな部屋に雨の歌と六太の寝息だけが響く。デジタル時計は何も言わない。
そのうち、水名子の頭にも霧がかかり、ゆっくりと意識が薄れはじめた。

とろんとした目をして、水名子はソファの上に身を埋めた。



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