企画◆

□あなたのうしろに
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しかし、幽霊が出るなんて噂、今まであっただろうか。

ぼーっとしていたおかげで頭が正常に働くまで時間がかかる。
ふわふわしたままの記憶を辿ってみるが、私の覚えている話の中でそのようなものは思い出せなかった。
英語の先生の太ましいお腹を撫でると英語力がアップするとか、無人の音楽室でピアノではなくなぜかトライアングルのチーンという音が聴こえるとか…。
頭をよぎるのはそういうどうでもいい噂話ばかりだ。
本格的な幽霊が出るなんて話、聞いたことがない。

「じゃあ、今日の夜七時に裏門集合な」
「七時?早くないか、それ」
「まだ誰か学校にいるんじゃね?」
「だからいいんだろ。誰かピッキングで窓開けられる奴いるか?」
「いねーよ、そんな奴」
「漫画の世界じゃねーか、ピッキングって」
「だろ。適当に一時間ぐらい校内うろうろするくらいだし、怒られたら帰ればいいんじゃね」
「うん、それでいいじゃん」

……いいんだろうか。
たった一時間で幽霊に出会えるとは思えないのだけど。
そう心の中で突っ込んだが、わざわざ口に出すことはなかった。
あの人たちに聞こえてしまったら盗み聞きしているのがバレてしまう。

「そーいや全然関係ない話なんだけど、今度の日本史の授業で出さなきゃいけない宿題やった?」
「天皇の名前調べてくるって奴か」
「俺もそれやってねーわ」
「あれ、調べてもよく分かんなかったんだけど。誰かできた人いる?」

幽霊の話から一変、彼らは難儀な宿題の話をしはじめた。
話の内容を聞いている限り、どうやら一年生か二年生のようだ。三年生ならこんなにのんびりしているはずがない。

そう分析しているうちに、彼らの足音は遠ざかっていった。










私は階段に座ったままさっきの話のことを考えていた。
夜の学校。暗い校舎。忍び込む生徒。なんの音もしない廊下。過ぎるだけの時間。突然現れる幽霊。
そこでゾワゾワと背中の毛が粟立つ。
いいじゃない。肝試し、いいじゃない。
ひとり頷いた私は彼らの幽霊探索に参加することにした。
もちろん気付かれないようにだけど。



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