企画◆

□あなたのうしろに
3ページ/4ページ


日が暮れて空の色が変わる。
廊下の窓から外の景色を眺めていた私は、いくつかの影が裏門に集まるのを見た。
それが会話を聞いてしまった運動部の男の子たちだということは一目瞭然。
人数は四。多くも少なくもない。
裏門から学校の敷地内に入った彼らが校舎の端から中に忍び込む様子を確認してから私は廊下を進む。
もちろん音を立てないように注意ながら。





夏の時期、学校にはわりと人が残っている。
それは先生だったり部活をしている生徒だったり色々だけど、今日は珍しく人が少ない。
考えた末にひとつ思い立った。
もうすぐ試験があるから生徒は部活動ができないのだ。
経験上、残ってやろうとしたら顧問の先生に怒られるのは分かっている。
そういえばいつもは聞こえてくる吹奏楽の演奏の音も耳に入ってこない。

そんなことを考えながら階段に沿って移動していると、小さな声が聞こえてきた。
どうやら例の幽霊探索隊らしい。
階段の上の方から見ると、あれからずっと学校にいた私と違って、彼らは私服に着替えていた。
学校で制服以外の姿を見ることはなんだか珍しい。

私は彼らに少しずつ近寄っていく。

「で、幽霊ってどこにいんの?」
「俺に聞くなよ」
「目撃情報ってねーの?」
「あ、音楽室に出るらしーぞ。吹奏楽の友達に聞いた」
「吹奏楽?軽音じゃなくて?」
「軽音の連中も知ってるって言ってたな」
「んじゃ、やっぱ音楽室か」

ふうん、そうなのか。
ここから音楽室へ行く方法っていったら―――

「とりあえず上いくか」

―――私がいる方向だ。
まずい、私がいることは絶対に知られてはいけないのだ。
私は大急ぎで物陰に隠れる。
息を潜めて縮こまっていると、抜き足差し足忍び足で彼らが姿を現した。

「音楽室だったらもう一階上か」
「……おい、早く行こーぜ」
「なんだよ、幽霊に会うのがそんなに楽しみなのか?」
「そんなわけあるか。いや、そうじゃなくてだな。なんかこの階…視線感じねぇ?」

掃除用具箱の影から彼らを見ていた私は急いで首を引っ込めた。
なんだろう。
あの人、感が鋭いというか……霊感の類いでも持ってそうだ。
私と同じことを思ったのか、探索隊のうちのひとりが聞く。

「視線?お前、霊感あんの?」
「うーん、そんなにあるわけじゃないんだけど」
「ちょっとはあるのかよ!」
「じゃあ、先頭行って出そうなところ教えてくれ」

ぎゃはは、と笑い声を上げながら姿が遠ざかっていく。





……危なかった。
あと一秒早く顔を引っ込めていなかったら冗談じゃなく見つかっていた。
ぎりぎりセーフだ。

しかし、あんな風に気配に敏感な人がいるとなると、迂闊に近づくこともできない。
私は彼らを尾行することに楽しみを感じはじめていた。
あの人たちは幽霊を見つけるドキドキだけど、私はいかにして彼らに見つからず幽霊を見るドキドキだ。

私は再びこそこそと動きだし、音楽室へ向かった。



>
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ