創作短編◆

□包帯の下は狼男
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薄暗く照らされた道を美知はソロソロと歩いていた。
なぜか高校の友人と一緒に大学の文化祭に行くことになり、なぜか彼女の兄のクラスが主催するお化け屋敷まで連れて行かれ、なぜかひとりでその中を見学するハメになった。
死ぬ思いで中に入ることを辞退していた美知なのだが、いつのまにか薄暗い箱の中に入れられてしまった。
「私がどれだけ怖いものが苦手なのか知ってるくせに…。あとで目に物見せてやるから覚悟しときなさい!」と友人にしょぼい怨念を送る。

……と、そんなことを考えられるのも、残りがあと少しになってきたからだ。
この道を抜ければ明るい出口が待っている。あの角を曲がれば終わるはず。
そう思っていたのに、

「ばあ!」
「ぎゃあああああぁぁぁぁ!!」

目の前に包帯を振り乱した怪物が迫ってきた。
美知は自分が何を叫んでいるのかも分からず、目を瞑って道を走った。
何かにぶつかったり蹴飛ばしたりした気がするけど、そんなもんなりふり構ってなんかいられない。
光の中に飛び出したかと思うと、冷たいタイルが目の前に広がった。

「お疲れー。みっちゃんナイス叫び!」
「俺、鳥肌立ったわ」
「こんだけやってくれると驚かせ甲斐があるな」
「うるさーい!」

美知の声が爆発すると周りにいた人が皆声を上げて笑った。
その中には友人の兄の姿もある。ハロウィン風お化け屋敷ということで吸血鬼の格好をしているが、まだ人型を保っているので見られる姿だ。
涙目を通り越して泣いてしまったその肩を友人が叩く。

「美知、どんまい」
「その笑顔を八つ裂きにしてやるー!」

美知の反撃を予測していたのか、友人はけらけらと笑いながら攻撃をかわす。
行動が読まれてしまっているのが癪に障る。
美知は拳を握ったままごしごしと頬の涙を擦った。

「おい、杏。みっちゃん泣かすなよ」
「あたしが泣かしたんじゃないよ。泣きながら飛び出してきたんだから、一番最後のお化け役の人に言ってよ」
「屁理屈じゃねーか」
「美知、一番最後に見たお化けって何だった?」

友人は兄の言葉を無視して彼女に問いかけた。
美知は嫌々ながら最後に見たお化けを思い返す。
「目を瞑っちゃったからほとんど分からなかったけど」と言いかけたところで、

「……俺のこと?」
「ぎゃあああああああ!?」
「うわっ!進、いきなり出てくるなよ。びびるって」
「さっきからいたんだけどな…」

体中にぐるぐると包帯を巻いた男が美知の後ろに立っていた。
泡を吹く寸前で意識を建て直し、美知は友人の後ろにさっと隠れる。
恐る恐る包帯男を見ていると、顔のほとんどが覆われているので辛うじて見えるのは目と口だけだ。
初対面――驚かされた時は恐怖心しかなかったので分からなかったが、外見は包帯まみれだが話している姿はフランクだ。
しかしそれは、

「美知、進さんが校内案内してくれるらしいから行ってきな!」

笑顔を振り撒く友人の発言で吹き飛んだ。
抑える間もなく「は?」という間抜けな声が美知の喉から出る。

「進さん、これから呼び込み行ってくるんだって。一緒についてきなよ」
「え、なんで?なんでそうなるの?絶対やだ――」
「進さーん、オッケーですってー!」

ダメだこいつ人の話聞かない!
美知は立ちくらみを起こしそうになったが、すんでのところで踏みとどまった。
そんじゃまー行こっか、と包帯男は宣伝用の看板を掲げてマイペースに歩き始める。
諦めのため息をついた美知はびくびくしながらその後を追いかけた。










横に並んで歩くと異常に注目されているのが分かる。
何しろ包帯男だ。上半身は包帯、下半身は黒のズボンを履いている人型とはいえ、普段は目にしない格好だ。
当の包帯男――進は美知の校内案内とお化け屋敷の宣伝を兼ねて歩いているはずだが、案内の様子も宣伝の様子もない。
ただぶらぶらと、好奇の視線の中を泳ぐように進んでいく。
なぜこんな急展開になってしまったんだろう。美知は頭を抱えたくなった。

「さっきはごめん」

喧騒に紛れて頭の上でくぐもった声がした。
見上げると包帯の間の目が動く。

「あ、いえ、大丈夫…です…」

まったく大丈夫ではなかったが、謝られたのに無視するのもおかしかったので美知は小さく答えた。



校舎から出た進が、ふと足を止めた。

「……どうしたんですか?」

美知の問いに答えることなく、進はじっと何かを見ている。
視線の先を辿ると校舎に沿うように小さな植え込みがある。倉庫の近くだからか、人はほとんどいなかった。
進はしばらく考えこむ様子を見せ、唐突に植え込みに向かって歩き始めた。



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