創作短編◆

□クリスマス系男子
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純太がバイトを終えて裏手に入ると、先輩のミヤとヤマがいた。
コンビニでバイトをしはじめて約二年。去年の今頃もバイトだった。
そんな純太のシフトは夕方から今まで、ミヤとヤマのシフトは今から明日の朝までだ。

「お疲れさまっす」
「おー、お疲れ」
「……お疲れ」

機嫌よく返事をしたのはミヤ、沈黙を携えて返事をしたのはヤマだ。
ヤマはすでに制服を着ていた。
それとは対照的に、ごそごそと制服を着ながらミヤが言う。

「おい、サッキー」
「なんですか?」
「二十五日ってバイト入ってる?」
「いえ」
「……ユキさんとデートじゃないの?」
「ヤマさんの言うとおりです」
「リア充爆発しやがれ」

悪い意味で顔面凶器と化したミヤを見て、純太は吹き出しそうになった口元を押さえる。

「ひどいっすよ、ミヤさん」
「うるせー!今年のクリスマスもバイトの俺に謝れ!」
「すみません」
「簡単に謝んな!」
「じゃあどうしたらいいんすか!」

理不尽だ。あまりにも理不尽だ。
ぎゃあぎゃあ騒ぐ純太とミヤを冷めた目で見て、あまり会話に参加していなかったヤマが口を挟む。

「……ミヤさんはいつもこうだから仕方ないよ」
「おいおいおいおい、やーまーのーくーん?お前は俺の何を知ってんだ?んー?」
「……え、ちょ、やめてくださいよ、やめて……うわ、ちょっ、あっ」
「ミヤさん!ヤマさんが脇腹弱いの知っててやりますか、普通!?」
「うるせー!八つ当たりさせろ!」
「意味わかんないっす!」

脇腹を押さえてうずくまるヤマに覆いかぶさるミヤを止める純太。
一目見ただけではどんな状況か理解できない構図となっている。
純太の援護によりミヤの攻撃範囲から逃れたヤマは突かれた脇を押さえながら肩で息をした。

「……サ、サキくん、ありがとう」
「ここは共闘しないと勝てないっすから」

床にうずくまったヤマは、暴れまわったせいで顔が赤くなっている。
狭いロッカールームで何やってんだ、という疑問はあえて抱かない。
なぜか勝ち誇ったような顔のミヤは鼻歌を歌いながら制服のボタンを留めた。
服を脱ぐ途中で手を止めていた純太はヤマを慰めるように声をかけている。

「いいんだよ、サッキー。こいつマゾだからむしろ喜ぶ」
「えぇー……」
「……サキくん、気にしなくていいよ。ミヤさんはサドっていうより性格悪いだけだし」
「ああん?」
「完全にヤンキーじゃないっすか」
「……あれ、サキくん知らないの?ミヤさん、昔は本当に不良だったんだよ」
「えー、そうなんですか?」
「お、おいコラ!ばらしてんじゃねえよ!」

ヤマの思わぬ反撃に今度はミヤが顔色を変える。
純太はロッカーから私服を取り出しながらその様子を面白そうに見た。
なんでそんなことを知ってるんだろう。

「……ミヤさんの弱味、俺はもっと知ってますからね」
「ほんっとタチ悪いなお前は!脇腹出せこの野郎!」
「……サキくん助けてー」

まったりと助けを求めてくるヤマに、純太の腹筋が限界を迎えた。
盛大に吹き出して、しばらく笑いの発作が止まらなくなるのをミヤとヤマはぽかんとして見ている。

「はははっ、ははっ……なんかすっげー面白いっすよ、ふたりとも」
「そーか?」
「あー、やべー……痛い、お腹痛いっす」

笑いすぎて引き攣る腹筋を撫でながら純太は大きく息を吸う。

「よし、そんじゃ帰ります!お疲れさまっした!」
「お、おーよ」
「……お疲れさまー」

光速で服を着替えて純太はロッカールームを出ていった。
当然のごとく、あとにはミヤとヤマだけが残る。

「……サキくん、元気ですね」
「よく風邪引いてるけどな」
「……それとこれとは別ですよ」

ミヤの揚げ足取りにヤマは顔をしかめる。

「よっしゃ、そんじゃ今日も稼ぐか」

ぐっと伸びをして、ミヤはタイムカードを押す。
ヤマはそれに続いてカードを通し、

「ミヤさん」
「ん?」

彼の少し後ろから名前を呼ぶ。
声は少し震えていたけど、それははっきりとミヤの耳に届いた。
去年ミヤに指摘された言葉の詰まりは、ミヤといるときはいつのまにか消えるようになっていた。

「こ、今年も一緒に牛丼食べませんか?」
「今年もっつーと、二十六日?」
「はい」
「去年も思ったけど、色気ねーよな」
「はぁ」
「んー、まぁいいよ。予定ないし」
「ほんとですか」
「嘘ついてもメリットあるか?」
「ないです」
「だろ?そのかわり奢れよ」
「そうですね」

思わず漏れた笑いがふたりの間で木霊した。



end

20111224

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