創作短編◆

□双子のドッペルゲンガー
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ドッペルゲンガーを見ると死ぬらしい。
昔から有名なこの話、私はいまいちよく理解できていない。
ウィキペディアを見てみると、「生きている人間の霊的な生き写し」なんて複雑な言葉が書いてある。
例えば私のドッペルゲンガーが現れると、それは元々は私であり、しかしそいつは私ではないのだ。
自分で言っといてアレだけど意味が分からん。

だから、この状況もよく分からない。

「それで、あなたはドッペルゲンガーなのですか」
「そーなんスよね!ドッペルさんっス!」
「私のドッペルさんなら女の子のはずなんだけど」
「あ、妹はもうすぐ来ます!」
「妹?」
「はい、妹っス!」

私は自室のベッドに正座していて、散らかった床には同じく正座をした男の子が座っている。
いや、男の子というには少し語弊があるかもしれない。
見た目は、私なのだ。
非常に不思議なことに、顔も体型も私を鏡に映したような造形だ。首筋のほくろも着ている服も今の私と同じだ。
しかし声が低い。まるで男の人だ。そこがとても違和感。

今日、私はいつもどおり朝起きて学校に行って授業を受けて帰ってきて夕飯を食べた。そのあとベッドに寝転んでうとうとしていた。
そして体を揺すられて目が覚めた。
てっきりお母さんが来たのかと思った。お風呂の準備ができたから用意をしなさいと来ることがあったから。
でも、実際は全然知らない私がそこにいた。
私の顔をして、私の姿をして、声だけは違う私がそこにいた。

「えっと……妹とはどういうことなんでしょうか」
「俺ら双子なんっスよ!」
「双子?」
「はい、双子っス!」

双子のドッペルゲンガーなんて聞いたことがない。
第一、私は十六年間ずっと一人っ子だったから兄弟がいるわけもない。生まれるときに双子だったなんてこともありえない。
こちらから何を聞いてみればいいのか分からないし、向こうはにこにこ笑っているだけだし。
あとそろそろ足がしびれてきた。
体育座りをしてもいいかな。そう考えたとき、

「失礼します」

唐突に部屋のドアが開いた。
そこには私がいた。
今度は姿かたち声も一緒の、正真正銘私がいた。

「お、来たか」
「はい、兄さん」
「紹介するっス!俺があなたのドッペルゲンガー『兄』で、こいつがドッペルゲンガー『妹』っス!よろしく!」
「拙い『兄妹』ですがどうぞよろしくお願いします」

『兄』は正座のまま、『妹』はドアの前に立ったまま同時にぺこりとお辞儀をした。
…………これは一体。

「あ、あの」
「なんっスか!」
「なんでしょうか?」
「とりあえずドアを閉めてもらってもいいですか」
「わわっ、申し訳ありません」

『妹』はドアを静かに閉め、『兄』の横にちょこんと座った。
うん、これはどこからどう見ても私がふたりいるようにしか見えない。
双子どころではない、本当に瓜二つの生き写しで鏡映しだ。

「あの、質問って、こちらからしてもいいんでしょうか?」
「もちろんっス!聞かれたことは嘘偽りなく答えるのが義務っスから!」
「……あなたがたはなぜ私のところに来られたのでしょうか」
「それがドッペルさんのお仕事っスから!」
「いや、そうではなくて」
「兄さん、ワタシが説明します」

私の目をした『妹』が私に向かって口を開く。

「ワタシたち『兄妹』はお話の通りドッペルゲンガーです。一般的には見ると死ぬ、などの噂があります」
「それは聞いたことがあるけど……」
「ですが、それは噂にしか過ぎません。ワタシたちドッペルゲンガーが関係しているのか、全日本ドッペルゲンガー協会でも原因究明ができていません」
「は、はぁ……」
「全日本ドッペルゲンガー協会のことはご存知ですか?」
「知らないです……」
「その名の通り、日本全国のドッペルゲンガーを束ねる組織です。ワタシたちはそこに所属しています」
「はぁ……」
「そしてワタシたちは『ドッペルゲンガーを見ると死ぬ』という噂の真相を突き止めるためにあなたに元へ来たのです」

私は足のしびれを耐えしのぎながら『妹』の話を聞いていた。
なんていうか、言っていることがどんどんわけの分からないことになっていく。
いや、違う。なんとなく、本当になんとなく分かるんだけど、今まで生きてきた現実と違いすぎて受け入れることができない。



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