企画◆

□山羊といっしょ
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「――なるほど」

山羊は瞬きをした。

「そうですね、それはそうですね。あなた、賢いですね!」

なるほどなるほど、と繰り返し呟きながら山羊は公園の暗闇を見つめる。

俺が賢いかどうかは置いといて、これなら大丈夫じゃねえの?という気でいたがどうやら大丈夫らしい。
こいつらのルールの中に、悪魔の手先を捧げることが禁止とされていたらこんなことはできなかったはずだけど。
何もやりたくないし、何もあげたくない。
ずるい考え方だと思うけど、矛盾はしてないはずだ。
こいつの気が変わらないうちにゴリ押ししちまおう。

「ほら、一番には違いないだろ?」
「そうですね、違いないですね」
「俺は寮に帰るよ。だからお前も早く向こうに帰れ」

缶コーヒーを飲み干してベンチ横のゴミ箱に捨てる。
山羊は俺を見たまま突っ立っていた。

「ほら、早く帰れよ」
「いいのですか、本当に」
「何が?」
「あなたにもきっと――わたしたちが持っていくべきものがあったはずなのに」

山羊の顔は街灯の光に照らされ影が醜く歪んでいる。
やつはゆっくりと歩を進めて俺の服の裾を噛んだ。そういや初めて会ったときもこんなことされたな。あのときはマジやめろって思ったけど。
がじがじと裾を噛んで、山羊は俺を見上げてくる。

「いいんだよ、俺は。お前は早く次のやつのところにでも行け」
「では、あなたからちょうだいする『一番』はわたしでよろしいですか」
「おう。そうだ、悪魔の一番偉いやつって誰?」
「大魔王様です」
「んじゃ、そいつに言っといてくれ。お前はサボって帰ったんじゃなくてちゃんと仕事してきたって。俺から『一番』をもらって帰ったって」
「分かりました!」

山羊は甲高い声を上げて頷いた。
噛まれたままのコートがぎりぎりと引っ張られる。

「それではありがとうございました」

ぱっと口を離して山羊は暗闇に消えた。
あっという間に消えた。





寮に帰ると先輩がいた。

「おかえり」
「……うっス」

コートを脱いでハンガーにかける。
寮室はどこにも変わったことがなく、先輩もいつも通りの先輩だった。
ただ、ここ数か月一緒にいた山羊がいなくなった。
他人には見えていないのでいなくなったという表現はおかしいかもしれないが、少なくとも俺の世界からやつは消えた。
あっさりと姿を消した。





と、思っていたのに。
数日後、先輩が青い顔をして俺に話しかけてきた。

「ちょっとおれも状況が分かってないんだけどさ……人の言葉をしゃべる山羊がいるって言ったら信じる?」

すぐそばで、聞き覚えのある甲高い声が聞こえた気がした。
いや、なぜか服の裾が引っ張られている感覚がした。
嫌な予感がするけど、なぜかひどい気持ちではなかった。





〔fin.〕





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