創作長編◆

□さいはてナナメ上
2ページ/17ページ


ゴミ捨て場はグラウンドの端にあり、生徒会室と比較的場所が近い。
その代わり靴箱から一番遠い場所にあるのでゴミを捨てる以外でわざわざ来る生徒はほとんどいない。

衣千子は1階に降りて上履きのまま外に足を運ぶ。いちいち履き替えるのは面倒だ。
ゴミ入れのコンテナに袋を放り投げ再び校舎に入り、校舎の入り口で靴の裏の砂や泥を落とす。
そのとき、見知った人物が歩いてくるのを目がとらえた。


「おーい、こーぐーれー!」
「き、聞こえてるから!」


くるりと振り返った瞬間、衣千子のスクールバッグが馬場秀介のみぞおちに直撃した。
言葉なく倒れ伏した秀介に衣千子は慌てて駆け寄る。
涙目で痛む部位を押さえる秀介にかける言葉は見つからない。


「だっ、大丈夫…じゃないね…」
「分かってんなら聞くなや、アホ!」


ヒイヒイ言いながら起き上がる秀介を衣千子はかろうじて支え上げた。
身長150センチ台の衣千子からすると、秀介は相当背が高い。支えるだけでも体力を使ってしまう。

秀介の不運は、ある意味才能と呼んでもおかしくない。
稀代の不運を背負って生まれてきたらしい彼は、ことあるごとに貧乏くじを引くことが多い。
もちろん秀介自身はそんな才能いらんわと常々嘆いている。

そのとき、


「……おい、どうした?」
「あ、矢田野くん」
「またシュウに不幸でも起きたのか?」


矢田野あきらが衣千子と同じスクールバッグを抱えて立っていた。
あきらは上履きをペタペタと鳴らしながら衣千子と秀介に近づく。


「今度はどうしたんだよ」
「こ、小暮の鞄がみぞおちに…」
「……小暮さんもアグレッシブになったな」
「ふ、不可抗力だから!」


衣千子が慌てて首を振ると、あきらは「分かってるって」と、無駄に爽やかスマイルを振り撒いた。
それを見て、彼が下級生の女子生徒に人気だということを改めて思い出す。

あきらは衣千子に代わって、よいしょ、と秀介を支えた。
秀介より身長は低いものの、仮にも男。衣千子より遥かに頼りになる。


「あ、あきらくーん…もうちょい優しく…」
「よし、行こっか小暮さん」
「いだだだだだ!!」


秀介とあきらのバッグは衣千子が持つことにした。
暴れる秀介を抑えつつ生徒会室へ向かう。

生徒会室の扉をがらりと開けると、すでに人がいた。
茶髪を肩下まで伸ばした少女が男子生徒2人の応対をしている。
扉を開ける音でこちらを向いた少女は3人を見ると衣千子に向かって手招きをした。


「ちょうどよかった。いっちゃん、ハンドボール部の活動報告書の話なんだけどさ」


呼ばれた衣千子はちらりとあきらを見る。彼は軽く頷き、応えるように促した。
衣千子は部屋の隅にある棚に鞄を置き、呼ばれた場所へ向かう。


「来て早々ごめんね。先月の市内大会の話なんだけど」


衣千子が話を聞いているうちに、あきらは秀介を連れて部屋の中に入った。
年季の入ったイスに秀介を降ろす。


「あー痛ってー。小暮の鞄、石でも入ってるんやない?」
「3年だったら石じゃなくて参考書だろ」
「…ごもっとも」


秀介はいまだにじんじんするみぞおちを撫でる。

そしてソファの前に置いてあるテーブルにチョコレートの袋が乗っていることに気がついた。
そろりと手を伸ばせば、べちんと勢いよく叩かれる。
犯人はどこだと見回せば、すぐそばに柴山冬貴が立っていた。


「なんや、柴山!」
「シュウくんが食べようとしたからでしょ」
「は、ハンド部の話は?」
「いっちゃんが終わらせたわよ」


冬貴はちらりと衣千子を見る。
視線を感じた衣千子は冬貴に向かって手元の資料を掲げる。


「ふゆちゃん、この書類どこに置いてあったの?」
「あぁ、それはねぇ…」


冬貴が衣千子の元に駆け寄る。
その隙に秀介はチョコレートを一口ほおばった。口の中に苦味の効いた甘さが広がる。


「よし、それじゃあ会議始めるかー?」


誰よりも冷静な声で、あきらは文化祭用のファイルを棚から取り出して言う。
書類ファイルの山に埋もれそうな衣千子も、それを助けようとする冬貴も、チョコレートをもう一口食べた秀介もあきらを見た。



>
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ