創作長編◆

□さいはてナナメ上
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古暮衣千子はホームルームが終わることを今か今かと待っていた。

ブレザーの袖についたボタンをぐりぐりといじる。
スクールバッグの持ち手はきゅっと握って、すぐに肩にかけられる体勢にしていた。

しかし衣千子の万全な体制をあざ笑うかのように、担任の先生は話は長々と続く。この人は話始めたら無駄に長いことで有名だった。


「先生、ホームルームの時間過ぎたよー」


そう言ったのは衣千子ではなくクラスメイトの男子だ。彼は臆することなく担任に顔を向ける。
男子生徒に言われて時計を見た担任は、あぁ、と頷いた。


「そうだな。じゃあ今日はこれで解散。5班は掃除サボんなよー」


その言葉を聞いて衣千子は脱力した。

そうだった。今週から教室掃除の当番になっていたことを失念していた。
イスや机の端をガタガタといわせて当番ではない生徒は次々と教室を後にする。
残っているのは掃除当番とそれが終わるのを待っている数人だけだった。

同じ班の女子が衣千子に声をかける。


「いーちーこーちゃーん。やるよー」
「う、うん…」
「あ、でも生徒会が忙しいんなら、少しだけでいいよー。あとはうちらに任せたらいいからさー」
「ううん。ちゃんとやるよ。今日は文化祭の話だからそんなに詰めて行かなくていいの」
「そっかー。もう2ヶ月切ったもんねー。うちのクラスなんもやってないねー」


笑いながらも手はきちんと動いて、埃やプリントの端などをチリトリの中へ追いやっていく。
衣千子はホウキに絡まった糸屑をつまみながら窓の外へ目をやる。校庭で陸上部がストレッチをしている姿が見えた。


「でも、まだ何もしてないクラスがほとんどだと思うよ」
「いや、3組は担任の先生も超やる気出してるらしいよ。高校最後の学年だし頑張るんだって」


3組に知り合いがいるのか、はたまた情報通なのか、女子は考えるそぶりを見せた。
そのあとに「うちの担任はアレだし期待できないけどね」と付け足した。





衣千子の通う高校ではあと2ヶ月ほどで文化祭が始まる。
文化祭の中心は文化委員会が担当しているが、衣千子が所属する生徒会はそれを裏から支える役目を負っている。
表立つことも多いが、行事が成功するように様々な裏方事情を引き受けるのも常だ。

衣千子を含め、生徒会長・副会長・会計・書記で構成されている生徒会執行部は今日も学校全体を奔走するのである。
基本的には裏方業務がほとんどになってくるが、それは文化祭開催当日の話だ。

文化祭の出展にはクラス参加以外では容認を得た団体だけが出ることを許可されている。
出展する部活動やサークルなどは、一度生徒会に参加願いの書類を出し許可を得なくてはいけない。
そして許可された団体だけが生徒会を通して文化委員会に参加決定される。
全団体を許可すれば楽だと思われることも多いが、トラブルが多発した過去があるので適当なことはできない。

そして文化祭が近づくにつれて、面倒くさい書類を渡してくる文化委員会に殴りこみに行きたくなるのは秘密だ。
あと1ヶ月もすれば生徒会室が荒れることは目に見えている。
衣千子は誰にも聞こえないようにため息をついた。





「よし、終わり!お疲れさまー」


机を運んで最後のゴミをチリトリに入れ、そのままゴミ箱に投入。
青いゴミ袋が一杯になったのを見て衣千子は、


「1階に行くからゴミ袋捨ててくるよ。新しい袋、付け替えといてほしいな」


と、自分のスクールバッグと青のゴミ袋を持った。

おうよろしく、と班員からさよならの意味も込められた挨拶を受け、衣千子は教室をあとにした。



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