創作長編◆

□朝 -あした-
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えぇー、こほん。
好きな音楽は洋楽一択。邦楽も好きだけど、個人的には洋楽の方が好き。
現在大学三年生。どうも、福地直介と申します。以後お見知りおきを!

「ふっくー、行くぞ」
「……あいあーい」

空気を読まない友人が俺を呼んでいる。わぁりましたよ、付いてきゃいいんだろ。
テキトーに返事をする。
大学近くのショッピングモールの中をぶらぶらと歩くのはいつものことだ。

俺も友人――加賀屋順平も今日の授業は午前中で終わり。
加賀屋とは大学からの知り合いだけど、今まで生きてきた中で一番気の合う奴だと思っている。
無理に気を遣うこともないし、適当な性格の奴と俺はなぜか波長がうまく合う。
って、そんな恥ずかしいことはどうでもいい。心の声が漏れてたら憤死するレベルで恥ずかしい。
とにかく、今日でゼミのプレゼンの発表もレポートの提出ラッシュも乗り切ったし、あとは夏休みを待つのみ!しばらくはのんびりできる。やっほー!

「ふっくー、あっこ寄っていい?」
「おー、いいよ」

ひとりでゴチャゴチャ考えていた俺とは別に、加賀屋が入っていったのは二階にある全国に店を構えるCDショップ。
話を聞いてみると、好きなアーティストのアルバムが入荷したらしい。そりゃ買いに走るわな。
今は特に欲しいCDもないので、ずんずん進んでいく加賀屋の後にこれまたテキトーについていく。
しばらく店内を歩いていると、不意に奴が上を見上げた。
頭上では俺も知ってる音楽がかかっている。

「これ歌ってる人、トム……トム・オーバーロンだっけ?」
「ちげーよ。誰だよオーバーロンって。オーバーソンだよ」

俺はちょうど通りかかった洋楽コーナーで「Tom Overson」と書かれたCDを手に取って見せる。

「まだ日本だとメジャーじゃないけど、この人の歌はほんと良いから聴いてみろよ。マジでオ・ス・ス・メ!」
「ふっくーきめぇ!いやー、いいわ。遠慮しとく。名前知ってるだけだし」

加賀屋はぶんぶんと首を振る。
きもいと言われたウインクを解除して、俺はいつもの洋楽大好き福地くんにチェンジ。
確かに、いつもは邦楽派のこいつがトムさんの名前を知っているのにはびっくりした。
こうやってCDショップに来たりネットで調べていると有名なたくさん人はいるが、興味がない人はまったく興味がないのも事実だ。
俺はCDを元の場所に戻しながら聞く。

「何、知り合いに詳しい人でもいんの?」
「まーな。ミサさんにあれだけ『トム』の素晴らしさを語られたらさすがのオレでも名前覚えちまうよ」

何気なくこぼされた名前に俺の耳が反応する。
つーことはあれか、そのミサって人は洋楽に詳しいってわけか。
あの人はあーいうときだけおしゃべりだから、とぶつぶつ言っている加賀屋の肩をガッと掴んでこちらを向かせる。

「おい。そのミサさん、だっけ?紹介してくんね?」
「は?なんで?」
「同士とは語りたいもんだろーが!お願い!頼む!このとおり!」

まさかトムさん好きがこんな近くにいるとは思わなかったし!
トムさんを知ってるってことはあの歌手のこともこの歌手のことも知ってるんだろうな。
ウキウキする俺とは裏腹に加賀屋は少し困った顔になって、

「うーん、ふっくーの夢を壊すようだけど、ミサさんは……」
「お前のオカン?」
「なんでだよ!」
「だいじょぶだいじょぶ。姉ちゃんや妹じゃない限り手は出さないから」
「他には出すのか!?つーかオレには兄貴しかいねーよ!」

素晴らしい勢いで突っ込んでくれた。ありがとうそれでこそ加賀屋だ。
しかしそんなものでは同士を見つけて荒ぶる俺にダメージを与えることはできない。
ぜひとも知り合って、お近付きになるって決めたからな!



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