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□愛を育むナイトメア
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息を詰めて目が醒めた。

こめかみを伝い内耳に流れ落ちる汗の感触が不愉快で、重く沈む身体を叱咤して起き上がる。

網戸から入り込む空気は重みを持ち、それでもひんやりと冷たい。デルフトブルーの未明の空が隣に眠る恋人を薄らと浮かび上がらせていた。

緩やかに上下する肩や背中に安堵すると同時に感じる寂寥に戸惑う。

既に断片的な静止画でしか思い出す事が出来ない先程までの悪い夢。

こちら側が現実だという安堵。

彼を起こさずにいられた安堵。

けれど、今すぐ気付いて目を覚まし、抱きしめて欲しいという寂しさ。

冷えた空気に乾いた汗がべたついて、私は彼の身体にタオルケットを掛け直してから、そっとベッドを下りた。






シャワーを浴びて寝室に戻ると、眠っていた筈の恋人はベッドの上に座り、こちらに背を向けて窓から空を見上げていた。

「起こしちゃった?」

ごめんね、そう言いながら私もベッドに上がると、ゆっくりと彼が振り向いて笑ってからまた窓へと視線を向ける。

窓から見える空は瑠璃色に変化していた。

「…この時間の空って、すげえ綺麗だな」

夜明けに向かい刻々と色を変える空。

「夕方も良いよ」

「うん、でもこの時間はさ、青だけなんだよ。青だけでずっと変わってんだ。一秒だって同じ青じゃない」

しばらく二人で空を見ていた。
今この瞬間の青も過去になる、それを惜しむように。

胡座を組んで座っていた私の後ろに移動した彼が、そのまま腰からお腹に手を回し私を包む。私の肩に額を乗せる彼の髪に指を梳き入れ撫でた。

「怖い夢?」

不意に尋ねられて、私は苦笑しながら頷く。既にどんな夢かも思い出せないが、言い様の無い恐怖をじわりと思い出す。

「ごめんな。…今度は起きてるから」

「え?」

彼に促されるままベッドに身体を横たえると、横臥した私の背中から彼の暖かな身体に包まれた。

「お前が寝るまで、お前が寝ても、俺今日だけは不眠症って事にしとくから」

「…なあにそれ?」

笑っていないと泣いてしまいそうだった。

彼に背中を向けたまま、重ねられた一回り大きな手に指を絡めて、私はゆっくりと瞼を下ろす。

握り返す指に安堵しながら。

そこにはもう寂しさは無かった。



Title:Chien11

20100702 ラブログ掲載

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