天秤とあたし

□拾参話
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『ひ、えい…?』







ほんの一瞬、顔を剃らしただけなのに。今までそこに座っていた飛影は姿を消していた。









私はふらりと立ち上がって今さっきまであの子が座っていた場所まで歩み寄った。








茫然と立ち尽くす私にはもう何がなんだか分からなくなっていた。









頭の中は飛影が居なくなったことにパニックを起こしているが、実際はただひたすらそこを見つめて立っているだけの私。












居ない、居なくなってしまった。ああでもすぐに帰ってくるかもしれない。本当に?帰ってくる家なんてどこにも無いのに。










私のところに帰ってくるの?今までは一人でどこかに行くときは必ず私に何かしら合図を、してくれたのに。









なんで今日はそれがないんですか?そんなに、私の事。嫌いになっちゃったんですか?










捜そう…。あれ、捜して、その後は?私を嫌ってるから姿を消したのに、わざわざあの子の嫌がることをするの?








これ以上、あの子が私を嫌いになったら、私は、……………一体なんのために、ここに飛影の姉として生まれてきたんですか?









ねえいつからですか?私と目も合わせてくれなくなったのは。









私が頭を撫でようとすると、すり抜けて行ってしまうようになったのは。











私と、話をしてくれなくなったのは。










ポロリと生暖かい泪が零れて、地面に落ちる。









草村に転がった氷泪石が、ああ結局。













私はお母さんや雪菜との大切な絆を壊してしまったと、告げているような、そんな気がした。









お母さん大好き。まだ一目しか見ていない、声さえ聞いていない雪菜が愛おしい。









無愛想で照れ屋で、それでも大きな眸に私をちゃんと映してくれた飛影が、愛しくて愛しくて、大好きで大好きで堪らない。









もっともっと愛情を注ぎたい。











前にも言いましたよね、飛影。











絶対に独りにしないって。私の事が嫌いなのなら私はそれで構いません。










でもね、私があなたに抱くこの思いはこの先十年たっても五十年たっても百年、何十年先にだって、絶対に変わったりなんかしません。












私の中は飛影で埋め尽くされているです。あなたの考えていること思っていること全部無視する、自己中心的な姉なんです。










私が飛影を、離したりなんかしない。離れていったって私はあなたに歩み寄ります。ずっと一緒に居たいんです。









だから、どこに居たって必ず連れ戻しますから。











だから先に、謝っておきます。























…こんなにも飛影を愛してしまって、ごめんね。











 

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