短編

□届かなくてもあの星はきっと美しい
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そう、まるで星のようだと思った。それがすべての始まりでした。



キラキラ光る銀色の髪に、常にだるそうな表情。瞬きをしたら次の瞬間には見失ってしまうような、消えてしまうかもしれないと思ってしまうほど、その儚さが星に似ている人だと思った。気がついたら私は彼を目で追っていた。彼のキラキラが目から離れようとしない。仁王雅治くん。私が恋をしている、お星さまみたいな人。



仁王雅治くんはテニス部に所属している。テニス部と言えば、レギュラー全員がアイドル、ホスト並みにイケメンということで有名である。しかもテニスの腕は全国区で、欠点をどこに置いてきたの?と聞きたくなるくらいすごい人たちの集団なのである。女の子からの人気が凄まじいテニス部の、しかもレギュラーでイケメンでお星さまな仁王雅治くんに恋をしているなどとクラスで口にしてしまえば、瞬く間にファンクラブのお姉さまたちの耳に入って私の心は粉々にされてしまうだろう。なんて恐ろしい。別に話しかけようとか、そんなこと微塵も思っていないのに…。仁王くんを視界に入るくらい良いではないだろうか。ダメなのかな。



今までどれだけの女の子達が当たる前に砕け散っていってのか…想像したらめちゃくちゃ怖かった…!!女の子怖い…あ、私も女の子だけれども。そんなわけで、私は明日の日を拝みたいという理由と、キラキラを目に納めるだけで十分という理由で、私は日々隠れながら仁王雅治くんに絶賛片想い中の少女Aなのである。








私の席の斜め前の席。そこには机にうつ伏せになって居眠りをしているお星さま。やっぱりお星さまみたいに今は活動停止なのかな。それでもなお、キラキラ光っている銀髪からは目が放せなかった。因みに今は授業中である。私は頬付きをしながら、ぼんやりと彼の背中を見つめていた。先生の話が右耳から入って何も学ばないまま左耳から出ていく。ちらりと時計を見ると、あと五分で終了のチャイムが鳴る時間を指していた。今は三限なので、あと一時間頑張ったら待ちに待ったお昼だ。あー、早く終わらないかな…再び仁王くんに視線を戻すと、仁王くんは左の腕に頬をのせてぼんやりと遠くを見つめていた。あ、起きてる…って、なんか私変態みたい…?なんて思っていると、金色の瞳が、一瞬こちらに向いたような気がした。慌てて仁王くんを見やれば、彼はまた机に突っ伏してこちらなど見ていなかった。なんだ、気のせいか…私はちえーと思いながらあと一分に迫ったチャイムを待った。



三限が終了し、気が抜けて思わず大きな欠伸をしてしまった。まあ誰が見てるわけでもないので、口なんか押さえずにかましてしまったが、私そんなこと気にせずにそうだ、と、お手洗いに行こうと席をたった。



ふんふんーと鼻唄を歌いながら教室のドアを開けると、真っ先に仁王くんが目に入った。彼はドアの正面にある窓の枠に腰かけて、一点を見つめていた。その表情がとても優しそうに見えて、私はドアの目の前に立っていたことなど忘れて彼に見いってしまった。すると彼は視線を感じたのか、はっとしたように私に視線を向けると、すぐに俯いてすっと流れるように自分の席に戻っていった。あ、どうしよう、私が見てたのがっつり見られてしまったではないか。え、ものすごく恥ずかしい…!!!これじゃあ仁王くんに変なやつだと思われちゃったかも…最悪だ…。…それにしても、仁王くん、なに見てたんだろう…そう思って仁王くんが見つめていた箇所を見やると、特に何があるわけでもなかった。ちょうどその場所に、私の机があったのには、まったく気づかなかった。




昼休み、私はいつもの場所で友達とご飯を食べていた。いつもの場所って言うのは、陽当たりの良い中庭だ。ここはお花が綺麗に咲いていてとても可愛らしい空間になっている。噂によると、このお花たちは幸村精市くんが可愛がっているとかいないとか…とりあえず私には真似できない芸当なので素直に尊敬していたりする。因みにここからだと私の教室が見えたりする。目を向けると、さっきの窓枠に今度は幸村くんが座っていた。なんで私のクラスに…と思ったけれど、部活の連絡かな、と考えれば別段不思議なことではなかった。すると、幸村くんはいきなりこちらを見下ろして、ビックリしたような顔をしたけれど、すぐに笑顔になってあろうことか手を振ってきた。友達はきゃーきゃー言いながら手を振り返していた。私はなんとなく会釈をしておいた。幸村くんは誰かと喋っていたようで、正面に向きなおして一言二言口を動かすと、誰かに向かって手招きをした。すると、こちらを指差してニヤリと意地悪そうに笑った。友達は私の肩をばしばしと叩いてくる。地味に痛いぞ。彼女は悶えながらヤバイと連呼してる。やかましい。因みにこの友達は幸村くん押しだ。ハイハイと彼女を流して、私は再び窓に視線を向けると、いつの間にか仁王くんが幸村くんの隣に立っていた。




仁王くんは一度こっちに目を向けると、直ぐに幸村くんに顔を向けて不機嫌そうに何か言ってどこかに行ってしまった。ふ、不機嫌そうだった…だと…?私を見て不機嫌って…軽いダメージを負った私は、ぐったりと項垂れた。ぽんっと肩に手を置かれて、慰めてくれるのかなと顔をあげると、素晴らしい笑顔でどんまい!と言われた。おい、と思ったのは仕方ない。くっそー他人事だと思って…!教室の窓枠にはもう誰もいなかった。



人気者で人を寄せ付けないお星さまな仁王雅治くん。私には手の届かない、私の大好きな人。キラキラ光ってる、お星さまみたいな。仁王くんは、私には釣り合わない、そんなこと、分かりきっていることだ。それでも、私の心から光は消えないし、手を伸ばすことを諦めきれないのだ。








彼女は知らない。俺が密かに目で追っていることを。彼女は知らない。大きな欠伸をばっちり見られていたことを。それを可愛いと思ったことも。彼女は知らない。時たま目があって舞い上がる俺を。彼女は、今日も知らない。俺が彼女に、恋をしていることも。たとえ幸村のことを好いていても、この想いはこれからも変わらない。




また明日、彼女の、彼の、『姿が見たい』




end

企画サイト「スタージェリーに墜落」提出


仁王くんは、幸村くんが大事にしている中庭でご飯を食べる彼女は、幸村くんに恋をしているからだと勘違いしています。幸村くんはそんな彼を見て早くしないと盗っちゃうよ?なんて脅して楽しんでいるようです。

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