奔走彼女
□1on1
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千穂がやってきて数時間、外はもう暗くなり始めていた。
「はい皆お疲れー」
タオルとドリンクだよん、と一人一人に配っていく千穂から、それぞれ受け取っていく。
「練習参加しないときはマネジ代わりさー」
火神にタオルで包んだドリンクを投げるように渡しながら言った。
「痛って! ドリンク投げんなよ!」
「いやいやこれぐらいキャッチすれば大丈夫。お姉ちゃんは信じてる!」
「んな変な信頼はいらんっ」
漫才のようなやりとりをする二人に、あぁ火神は苦労してんだなぁ、と周りの心が一つになった。
「よし、今日の練習はここまでにしましょう」
「よし、じゃあ大我やんぞ。順平ーボールー」
待ってましたと言わんばかりに千穂の目が輝く。プリーズプリーズ!と手を広げる彼女に日向は苦笑した。
「はいはい」
困ったもんだ、と言うような表情で、それでもボールを投げ渡す。
「Merci!」
お礼を言ってボールを火神に投げると、上着をポイッとベンチへ放った。
「どんくらい成長したかお姉さまが見てやんよ」
ニヤリと笑えば火神も挑戦的に笑う。
「おもしれえ! やってやろうじゃねぇか!! 俺が勝ったら飯奢れよ姉貴」
火神の言葉にキョトンとした顔をするが、すぐにまた不敵な笑みを浮かべる。
「いいよ、勝てたら一週間奢ってやろうじゃにゃぁか。その代わり負けたらCD買ってもらうからな、高いやつ」
「上等だっ! ぜってぇ勝ってやる」
二人の会話を聞いていた黒子は同情するように火神を見た。
「あれは、火神君買わされますね」
「うん、俺もそう思う」
同意する日向に、一年が不思議そうに尋ねる。
「え? でも火神が勝つかもしれないじゃないスか」
「僕は無理だと思います」
「まぁ、何つーか、アイツは次元が違うからなぁ……」
「でも俺らんときみたいに一方的にはなんねぇんじゃね?」
「いや、多分さっさと終わると思うぞ」
小金井の言葉をあっさりと否定して、日向は笑った。
「千穂だし。賭けまでしたらほぼ確実に勝つ」
断言してから、日向はもう一度火神に同情の眼差しを向ける。
きっと、すげぇ高いやつ要求されんだろうなぁ……。
可哀相に、と心の中で合掌した。
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