奔走彼女
□1on1
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「んじゃ、ボールは大我にプレゼント」
「けっ! あとで後悔させてやる」
完全に舐められている。
確かにアメリカに行く前は一度も勝てなかったが、それでもあれから成長しているのだから、ここまで舐められるとカチンとくる。
ギロッと睨みつければ、千穂はやれるもんならやってみろ、と言わんばかりに挑発的に微笑んだ。
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そして、火神は負けた。
ゴールに辿り着く前にボールを奪われ、そのまま取り返すことのできないまま、あっさりと、完膚なきまでに負けた。
「あの、火神が…」
「手も足もでないなんて……」
驚く外野をよそに、千穂は満足そうにしながらボールを弄っている。
「……んーやっぱ強くなってんねぇ。でもちっと粗いかな」
ボールを脇に抱え、火神の前まで進む。
「強くなったね、大我。ま、まだまだ私には敵わんが」
偉いぞと小さい子を褒めるように、幼い弟を慈しむように、千穂は火神の頭を撫でた。
先のような乱雑なものではなく、慈愛に満ちた、優しく撫でる手。
「……そのうち負かしてやるからな」
「ん。楽しみにしてるよ」
悔しそうに自分を見下ろす弟に、千穂は楽しそうに笑って応えた。
「じゃあ今度CD買ってもらうからよろしく!」
「……あんま高くないのでよろしく」
「え、やだよ。約束したじゃん。高いのって」
妥協する気が全くない彼女を見て、火神は溜め息をついた。恐らくしばらくの間火神の財布の中身は寂しくなるだろう。
「よし満足。さぁ帰ろう」
心底満足そうな様子でボールを仕舞うと上着を拾って羽織った。
彼女の言葉に我に返った部員たちは、慌てて着替えに更衣室に向かっていく。
「千穂さん」
「んー何ぃ?」
ベンチに腰掛けドリンクを飲んでいると、リコが近寄ってきた。
「火神君、どう思います?」
「、そだね……。まだ強くなるよ。アメリカに行って正解だったね」
ドリンクから口を離すと、天井を見上げながら答える。
「でもまだまだ発展途上。あんなんじゃキセキの世代倒すなんて夢のまた夢、かな」
まぁあの子単品ならね、と続けた。
「でもいつかキセキを倒して、私を越えるよ。きっとね」
楽しみだぁ、と言ってクスクスと笑う。
「ま、育てんの大変かもしれないけど、頑張ってね、カントクさん」
「はいっ」
リコの返事にニコリと微笑むと、そのまま体育館を出て行った。
おまけ→
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