NARUTO部屋

□とある鮫の子の話
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「万一のことがあれば、お前が持って逃げなさい」

命じられたのは、まだ口のきけない大鰐鮫のこどもだった。

「お前は他より小さくて弱いですからね。足止めに回した所で、すぐにやられてしまうでしょうし」

何より、と。
こどもの契約者は暗い目をしてうそりと笑う。

「この手の仕事は、口の割りようが無い者こそが適任ですからね」


水の塊を纏って、一目散に森を駆ける。小柄な体は、木々の間をすり抜けるのに酷く好都合だった。
一緒に封じられていた大人達が上手くやったのだろうか。背後から追手の声は聞こえない。
契約者の姿は無かった。当然だ。その時のための自分と大人達だ。逃げ出す直前鼻先に感じた血臭が、全てを物語っていた。
これを運んで、あの人の元へ運んで、そうしたら。

(ひとのての、とどかないところへ)

深い深い海へ潜って。契約者など無い一匹の鰐鮫に戻って。生涯口のきけない魚のままに終わるのだ。
誰にも今日の行き先を知らせないために。彼と見てきた全てのことを誰にも知らせないために。
彼の生涯最後の望みを、何としてでも叶えるために。


水底に生きる者たちは、口を噤んで死んでいく。

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