NARUTO部屋

□熾火の外れ
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火を囲む輪を離れ、どすりと座り込む。

目立たない程度にとささやかに設けられた焚火であれ、炎に照らされた場所と照らされない場所では随分と気温差があって、思わず身震いする。
周辺諸国と比べて、霧隠れ近辺は冷涼な気候にある。夜間の森ともなれば、足元から這い上がるような寒さが其処此処に蟠っていたが、日中ひたすらに駆け続けた体には、むしろその冷たさが心地良いようにさえ思われた。
一息ついて、焚火の側に腰を落ち着けた部隊の面々を遠目に見遣る。任務上同じ隊に分属された者同士とはいえ、自ら離れてさえしまえば、碌に面識もない護衛役に好き好んで話しかけてくるような奇特な者などそういなかった。
遠く、談笑する声が聞こえる。
耳を塞ぎ目を閉じた。

護衛する隊の日常の話など、この任務に携わる以前の話など、聞いてはいけない。
どんな風に生きてきたか知ってしまえば、いざという時屠る手が鈍る。
それだけはあってはならない。一人たりとも逃してはならない。この役割は、そういう物なのだから。

箝口令を敷こうと記録を消そうと、関わった人数や実例が増えていけば情報は必ず漏れ出していくものだ。「あいつが護衛を受け持った隊は、敵中に取り残された時必ず『全滅』する」なんて噂は、広まっていはしないだろうか。
後ろ指を指されるのも誹りを受けるのも何でもないが、怯えて隊を離れられ、結果敵の手に渡ってしまえば本末転倒だ。可能な限り襤褸は出さず、知る輩の口は封じておかなければ。冴えた頭の中を淡々と巡る思考の冷たさに、苦笑する。

我ながら、何という人でなしか。


家族の話をしないで。
友人の話をしないで。
将来を誓い合った恋人の話を、帰りを待つ仲間の話を、私に聞かせないで。
きっとそれでも必要となれば殺せてしまうどうしようもない私自身を、私にまた思い知らせないで。


幼子のように体を縮めて、寒さをやり過ごす。
夜は未だ、明けそうになかった。

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