NARUTO部屋

□味のしない食事の話
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突き詰めて言えば、チャクラさえ奪えるのなら、碌に食べなくともやっていける身体なのだ。
チャクラの質が良ければなお良いが、そうでなくとも十分な量を得られさえすれば、一週間ほどの断食分くらいなら簡単に回復出来る。
下手物も口にしてみた事はあるが、大抵の場合はさっさと兵糧丸と敵の忍のチャクラだけで保たせる向きに方針を切り替えていた。
必要の無いものをわざわざ摂取するのだから、どうせならまともな食事の方が良い。嗜好品ほど拘りたくなるのは人の性というものだろう。

そんな訳で。
かつて自分を招いた男が再び現れ、彼が約した計画も本格的に動き出し、色々と慌しくなる最中。僅かな時間とはいえ久しぶりにゆっくり昼食を取る暇が出来て、迷わず少々遠方にある値の張る店を選んだのだ。
けれど。


ぱき、と薄い殻を食む。咀嚼して、飲み込む。


(……おかしい)

味がしない。
鼻を抜ける香りも、独特の歯触りも、舌に感じる風味も何も変わっていないはずなのに、好物のはずの代物は違和感だけを残してざらりと喉を落ちていく。
厨房の面々も変わっていなかったし、材料の高騰の話も聞かない。
もしや毒でも仕込まれたものかと思いもしたが、味覚の異常を除けばそれ相応の異変も症状も特に無かった。首を傾げる。

かつて来た時に頼んだメニューを思い出す。今日と同じ海老と香草の炒め物と、卵を溶いた麦のスープ、塩の効いた麺類。それから。

解ける程煮込んだ葉物野菜の煮込みと、果物を寒天で寄せた甘味と、アナタがこっそり頼んでいた、昆布の入ったおむすびと。


(……以前は、もっと良い味だった気がするんですけれど)


隣に誰かのいない食事は、こんなにも味気ないものだっただろうか。

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