NARUTO部屋

□目隠し鬼の話
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夢を見た。
酷く暗い夢だ。
数歩先さえ見えない真っ暗な道の上。
ただ足元が鉄臭く、錆びた血で泥濘んでいるのだけが分かる。

目を開ける。
未だ夜なのか、こちらも暗い。
ふらりと立ち上がって辺りを見渡す。
どうしたことだ。夢の中と同じ程、真っ暗な闇の中にいる。

(鬼鮫、)

誰だ、誰だろう。
よく知っている気がする。
そうだあれは月の声だ。闇色にぬめる、月の声。
私の手を引いた、あの月の。

(鬼鮫、)

あの方の声が聞こえる。
行かなくては。行かなくては。
纏い付くものが邪魔だ、阻むものが邪魔だ。
早く、早くあちらへ。必要な物は集めてきます。言われずとも、こなしてみせます。敵わぬとしても、切り捨てられるとしても、お願いです、私も。


(そこへ連れて行って)




「ーーそっちは危ないぞ」

ぱちりと瞬いて、声のした方を見返す。
ささやかにも赤々と燃える燠火の向こう、こちらを見据える男と目が合った。
常は黒い目が紅く変じている。

くるりと周囲を見渡す。
森だ。夕暮れを迎えて僅かに夜の帳が下りてはいるが、そう大した暗さではない。
街道で遭遇した追手をまいて、近くの森へ逃げ込んだのだ。今日明日の間は目立つ場所へ戻るのは避けたいと、そのまま適当な隠れ場所を見繕い、野営に移ったのだったか。
では先刻までの場所は、一体何だったのか。

「微かだが木の爆ぜる音がした。迂闊に動くな」

木の爆ぜる音、となればおそらく焚火の音だ。追手が野営に移っているのか無関係の旅人かは知らないが、前者であった場合、里からそう離れていないこの場所で騒ぎになるのは面倒に過ぎた。
言われるまま、上げかけた腰をすとんと下ろす。少し満足そうに頷いて、相方の青年は視線を燠火へと移した。
眼は、既に元の黒へと戻っている。

「…何か術でもかけましたか?」

幻術使いにこの手の質問など愚の骨頂とは思いながらも、問いかけずにはいられない。
先程の場所は、何だ。

「いや、何も」

ただ夢見が悪いのか、魘されているようだったからなと、淡々とした答えが返る。
夢。夢だったのだろうか、さっきの場所は。
確かに現実離れした空間ではあったが、それにしては生々しく思われて、鬼鮫はことりと首を傾げる。



鬼さんこちら。
鬼さんこちら。
 
暗闇の鬼は手の鳴る方へ、ふらり、ふらり。

見かねた誰かが、つんと袖を引く。
束の間、足を止めさせる。


今日も、少しだけ。
お前の焦燥の邪魔をする。

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