NARUTO部屋

□艫綱の話
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私の最後の艫綱を切ったのは、貴方でした。


それはもう、縋るには頼りないほどボロボロで、日々の所業で擦り切れて、殆ど千切れてしまっていました。
持ち主であるはずの私にさえ、何処にどう繋がっている物なのか、分からない代物に成り果ててしまっていました。
しかしそれでも寄る辺ないこの身には、唯一無二の物でした。

そんな細い細い糸のような私の最後の繋がりは。同郷の上役を殺し、それと信じて従っていた里長の存在さえも砕かれて。音も立てず刃も立てず、さらと吹かれて、途切れてしまいました。

砕けて崩れて脆くぐらついた、私に残った足場の全てを取り去って、貴方は私に手を伸ばしました。茫洋とした渇望に、叶える術を与えてやると。こちらへ駆け出し、飛び込んでこいと。
私を繋ぎ止めていた物の何もかもに、持っていたと思いこんでいた物の全てに、たった今、貴方が止めを刺したくせに。


なんて酷い人。なんて狡い人。



私の最後の艫綱を切って、月色にぬめる闇の淵へと誘った、昏くて眩い、緋い眼の貴方。
逃げ場が無かったのだと、言い訳は出来たでしょう。そこまでやらされて、聞かされて、断れば口封じに殺されるだけだと悟ったからだと、言うことはきっと出来たでしょう。
けれど、けれど確かに、私は。

艫綱を切り、逃げ道を塞いで、正気とも思えない夢を語って。
初めて『私自身』に伸ばされた、貴方のその手を。


私は確かに、笑って取ったのです。

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