NARUTO部屋

□旧知の話
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「どうしたんですかー?鬼鮫先輩」

ひょこん、と眼前に現れた派手な橙色の奇抜な面に、大柄な男は円い目をぱち、と一度瞬いて、またか、と言わんばかりにげんなりと眉を寄せた。
ふざけた面の男はそれを微塵も気にしていないのか、あるいは気付いてもいないのか。びっくりしましたー?なんて言いながら、へらへらした態度を崩す事もなく、その周りをちょろついては、あっちこっち眺め回している。

「こないだから先輩、なーんか元気無いんですよね。あ!分かった!イタチさんと喧嘩したとか!」
「違いますよ」

毎度毎度、鬱陶しいですね、と鮫肌に手をかけられれば、これ見よがしに慌てて見せて、物陰へすっ飛んでいく。

だから、やめとけと言ったのに。
一部始終を見送って、デイダラは、はあと息をつく。


暁において、指輪を持つほどのメンバーが、二人一組以外の相手と接触することはそう無い。
無いのだが、どうもこの後輩は機会さえあればそこいらにいる面子に突撃しているものだから、一応それを監督する立場にある身としては、非常に扱いに困ってしまう。
ちょこまかちょこまかと。
よくもまあ、あんなに舐めた態度で絡んでいけるもんだなあと、いっそ感心すらしてしまいそうなほどだ。

無言無反応を貫くイタチや、即殺しにかかった角都はともあれ。リアクションがある相手がやはり楽しいのか、この所は飛段や鬼鮫が主な犠牲になっている。
サソリの旦那が健在だったなら、すぐさま仕込みで蜂の巣にされてたんだろうなあと、今となっては懐かしい記憶に浸り、しみじみとした思いで目を閉じる。
サソリの旦那。旦那が昔、うろちょろするガキの俺にキレまくってたその気持ち。今となっては謝りたいくらい理解出来るぜ。大変だったんだな。

ダミ声と少年の声の交錯する、かつて散々聞き流してきた罵声に思いを馳せていれば、床を砕く鈍い音に現実に引き戻される。
どうやら我慢の限界…というか、暴力的手段に出る一線を越えたらしい。鼻先を掠めた大刀に、ひゃあー!と情けない声を出して飛び上がっている仮面の後輩。よく見る光景だ。

まあ、よく避けた方だなと思う。
目は口ほどに物を言うというが、鬼鮫の目には全くと言っていいほど感情が現れない。ほんの数回顔を合わせただけでは、白目の血走り具合から気が昂ぶっているか否かを判別するのがせいぜいだ。
お調子者の新人がおいそれと近づいていいものでもないだろう。腕の一本も削り落とされなかっただけ、マシという所か。
霧の奴らはキレるより先に物理的手段に出るもんだから、読み難くていけない。

ちょろちょろと間合いのギリギリを保ってまとわりついていたものの、ついに一歩踏み込まれ、キャー!と悲鳴をあげて逃げ出した後輩を見送って、やっとこさ静かになったとデイダラはゴロンと横になり…


(……うん?)


はたと、違和感に気付く。

見慣れない者からすれば、一見常に不気味な笑みで固まっているようにも見えるが、その実鬼鮫はよく表情を変える。
驚いた時、呆れた時、困り果てている時。
当人の自覚は薄かろうが、普段の余裕綽々とばかりの振舞いが嘘のようにあっさりと表情を崩す。

忍にとって動揺を悟られる事は致命的であるがゆえ、感情が表に出ないようにと修練を積む者もあるが、元々読みにくい目と表情に加えて、それを判別出来る程長く共にいた者が少なかった、というのが大きいのだろう。判別が効くようになってからは、これがよく能面に見えていたものだと己の観察眼を疑いたくもなった。
だがそれは、あの男の顔を見慣れてからだからこその話だ。


…驚いた?元気が無い?
あいつは何を見てそう思った?
表情や雰囲気で、というのなら…ほんの数日前に組織に入った、殆ど初対面の相手なのに、か?


きゃらきゃらと浮かれ騒いだ空気を振り撒いて去った、とうに見えなくなった後輩の後ろ姿をまじまじと見やり、デイダラは再度、深く深く首を傾げた。

「……あいつ、何であんなに鬼鮫に慣れてやがんだ?」

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