ユウの小説
□mermaid
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岩西を―…刺した。
ベッドのシーツを這うように、紅い色が広がっていく。
血、血、血。
岩西という人間だったそれの、心臓を綺麗に突き抜くナイフ。
俺は笑ってる?
それとも…―
「っっっ!」
がば、と。
飛び跳ねるように起き上がる。
汗が頬を伝った。
―夢、だった。
カチャリ、ドアを開けて岩西が部屋へと入って来る。
「…蝉、」
大丈夫か、と、水の入ったコップを手渡して。
「うなされてたな」
「…ああ。」
蝉は岩西にバレないよう、ほっと息を着いて水を飲みほした。
何故、あんな夢を見たのか―。
蝉は緩く瞼を閉じた。
―ああ、そうか。
昨日そういえば。
記憶を辿ると、どうやら岩西と交わした会話の内容が原因らしい。
□□□
『なぁ。』
『なんだよ?』
『こいつ…アホだな。』
それは、たまたまテレビでやっていた人魚姫の童話。
子供向けに作られた内容はわかりやすく、馬鹿馬鹿しい。
王子様に一目惚れした人魚姫は、声と引き換えに足を貰って愛しの人に会いに行く。けれども、王子には大切な相手がいて。
王子を殺さなければ自分が死ぬというのに、最後には全て受け入れて泡になって消えてしまった。
『んなもん、刺しちまえばいいのに』
『ひひっ、蝉ぃ。おまえには夢がねぇなぁ?』
『は?』
『じゃあ、おまえはよ。』
―俺だったら殺すか?―
………。
『…ば、…っかじゃねぇの!』
『ひひ、』
くだらない、
大体、岩西が王子様?
はっ、どっちかってーと、魔女じゃねぇのか。
□□□
「俺は刺せたぜ?」
「あ?」
「昨日聞いただろ?岩西を刺さなければ俺が死ぬってなったら、殺すかって。夢でな。…見たんだよ。」
「俺は…刺した。」
それはまるで自分自身に確認してるみたいだ、と人事のように思った。
「お、おい、」
何故か目の前に居る岩西が焦った表情を浮かべる。
ああ、そうか。俺がお前の人形じゃないと分かって悔しいのかよ?
ぽたり、
突然水滴がシーツに染みを作った。
「え、」
視界がぼやける。
…泣いてる?
「お前、そんなに俺が死んで悲しかったのか?」
「…う、…うっせ…っ!」
もう岩西がどんな顔をしているのかわからない。
いつもみたいに人を見下すような嘲笑を浮かべてるのだろうか。
「蝉」
しかし、その声は優しかった。
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