戦国無双

□狗よ狗よ 汝を如何せんや
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天守最上階の部屋で、相も変わらず何を語るでもなく共に過ごしていればおもむろに風魔が口を開いた。

「犬は愛らしい。己の主と認めた者に忠誠を尽くす、愚鈍な生き物よ」

風魔は、己の両脇を固めるように密着する狼を、ほお擦りせんばかりに撫でている。

風魔からすれば、獰猛な狼でさえ犬と変わらないのだろう。

常日頃から、風魔から【狗】呼ばわりされている半蔵は眉間のしわを深くさせた。

ふと、一つの疑問が浮かぶ。

「…なぜそこまで犬を好むのだ」

ぴたり、と狼の毛並みを撫でていた風魔の手が止まる。

「…犬は、」

遠くを眺めるような目つきになった。

遠く過ぎ去った過去を思い出しているのかもしれない。

風魔らしくない目つきであった。

「死してもなお、主の側にいる」

緩やかに手を動かし始め、毛並みを撫でる。
しかしその動作は、どこか淋しげだった。

「半蔵。うぬとて、死しても家康公が側にあるだろう」

うぬは【狗】ゆえ―――くすくすと笑み混じりに言う。

犬呼ばわりされたことは気に障った。

しかしこの命が散ったとしても、我が主に忠誠を尽くし続けるだろうというところだけは、その通りだと思ったので、黙っていた。

そんな半蔵を見て、風魔は見透かすように眼を細めた。

「――…所詮は犬畜生か。どいつもこいつも主より早死にしおる」

ふん、と馬鹿にするように鼻を鳴らした。

普段、己からの命令は何一つ違えぬ犬たちでも、死ぬなという命令だけは聞いた試しがない。

そう言うと、風魔は軽く溜め息をついた。

「遺される主からすれば、堪ったものではない」

(…勝手を申すな)

半蔵はこそり、とそう思った。

主の危機を守るためならば、己の命を引き換えにするのが、犬なのだ。

己がいなくとも主は生きていけるが、しかし、主がいなければ己は生きる術を失ってしまうのだから。

(どうせ死ぬのならば、主の為に死にたい)

ふと視線をあげれば、風魔がこちらを見ていた。

「…うぬもか」

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