戦国無双

□団子とお面
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紅が視界に過ぎる。嗚呼、何だってこんな日にすらお前の面を見なきゃならないのだ。
今日は、ねね様も左近もいないから、ゆっくり仕事が出来るはずだったのに。
よりによってそんな日に何でお前が顔を出す?
……いや、理由など分かりきっている。この俺に嫌がらせをする為だ。
全く、退屈しのぎ相手なら半蔵がいるではないか。
あれをしこたま気がすむまで苛めて素直に満足しておれば良いのに。
三成は、眉間に皺を寄せて溜め息をついた。
すると、それを面白がるような笑い声が背後からした。
……嗚呼、人の溜め息だけでそんなにも楽しそうに過ごせるとは、気楽なものだな。
窓に腰掛けて、風に髪を弄ばれるままにし、外の様子を眺めていた風魔だったが、不意に口を開いた。

「……半蔵なれば、うっかり壊しかけた故、暫く遊べぬのだ」

どうやら、奴の遊び相手である半蔵がどうしたかの、俺には何の利にもならぬ報告のようだ。
奴は、時たま俺の心を見透かすような事を言う。
奴が言うには未来も見えるらしいが、どうせ、嘘だろう。
全く、壊さない程度に遊ばぬものか。
そうすれば俺のところまでは来ぬというのに―――

「ククク」

風魔のくぐもった邪悪な笑い声がする。嗚呼、いつ聞いてもぞっとする気味の悪い笑い方だ―――

「こうして、美しいうぬを愛でるのも悪くないのだが―――そろそろ伝えておかねばな」

こいつの言う事は、理解不能だ。
時々、風魔には、他人に自分の話を分かってもらおうとする気がないのではないかという気もする。
最も理解する気などハナからないが――
忠告してやろう、と普段とは違う声色と雰囲気に変わった。
一瞬、不覚にも筆を進める手が止まってしまった。

「他人の話は最後まで聞くのだぞ」

いくら分かったつもりであっても、いくら辛い事であっても―――だ、と囁いた、聞いたことのない風魔の真摯な声に、思わず振り向く。
だが、そこには俺が振り向いたのを見て、ん?と片眉を引き上げて、にやりと笑う普段通りの風魔しかいなかった。腹が立つほど、変わらない不愉快な笑みだった。
―嗚呼、意味が分からない。
もはや仕事をする気にすらなれず、三成は書類を整理して、脇に抱えて素早く不愉快な男のいる部屋から出ようとした。
だが背後から、追いかけるように話しかけられる。

「嗚呼、土産ならば団子十本ほどで構わぬぞ」

ふざけた事をぬかす口だ。いつかその口を糸で縫い付けて塞いでやる。
そう思いながら、勢いよく襖を閉じる。
足早にその場から立ち去り、風魔のことなど意識の彼方に追いやろうとしたのだが、閉じられた襖の隙間から漏れ聞こえる忍び笑いが、癇に触る。
――くそっ
これではまた、あの男にいい様にからかわれただけではないか――


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